第456話 休暇開幕
456
西暦二〇X二年八月一三日。
黒騎士をはじめ冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟が、六辻剛浚率いるクーデター軍と激戦を繰り広げ、カムロがヨシノの里で大捕物に励んでいた頃――。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太ら焔学園二年一組の生徒達を中心とする冒険者パーティ〝W・A〟は、異世界クマ国の辺境にある、クマの里へ到着した。
「半年前、あにさま……。いえ、桃太お兄様と皆様に助けていただいた呉陸羽です。ご恩返しがてきるよう頑張ります!」
「リウといっしょに冒険者パーティ〝W・A〟へ参加することになった呉栄彦だ。よろしく頼むよ」
この時、別ルートを通ってクマ国へ先行していた桃太の亡き親友、呉陸喜の妹である、山吹色の髪を三つ編みにした少女、呉陸羽と、彼女の親戚である、無精髭の似合う中年男、呉栄彦も合流する。
「実は冒険者組合の獅子央孝恵代表からメッセージを預かっている。
〝親書の配達ご苦労様。皆にはこれから地球日本と異世界クマ国の融和に向けて、クマの里の人々と親睦を深めて欲しい〟
とのことだ」
「「おおーっ」」
栄彦は新天地に目を輝かせる焔学園二年一組の研修生達に告げた後、桃太が捕まえたテロリストの首魁、七罪業夢らにジメっとした視線を送った。
「と、クマ国側とは話がついてたんだが、そこにいる元勇者パーティ〝K・A・N〟がヨシノの里へのっとり攻撃仕掛けたことで予定が変わった。代表のカムロ氏は事態収集のために三日間、クマの里を留守にされる。桃太君達は彼が戻るまでの間、この旅館で連戦の疲れを癒して欲しい」
「「え、まさかの三連休!!」」
桃太達は、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟のスポンサーである、クマ国の過激派団体〝前進同盟〟との交戦を避けるために、長旅を余儀なくされ……。
最後に葉桜隊、業夢一党、吸血竜ドラゴンヴァンプと、命懸けの三連戦を強いられたことでヘトヘトになっていたため、ふってわいた休日に喜んだ。
「基本的には男女別れて、四つの大広間で宿泊することになる。風呂は夜も更けているので、今日は我慢して欲しい。あとのことは、私に任せて出雲リーダー達は旅の疲れを癒してくれ。こういうのは手慣れたものさ」
「「すげえ、旅路でたまっていたレポートや書類が消えてゆく!?」」
栄彦は旅館に到着するなり食堂にこもって、報告書作成や物資補給などの仕事を粛々とこなした。
負傷した生徒達からも頼れる大人だと感心されたものの、彼がかぶった化けの皮がはがれたのはすぐ後のことだ。
「ぷはーっ。水が綺麗だからか、酒が上手い。いっそ定住しようかなあ」
栄彦は食堂で提供されるクマ国の酒がよほどに気に入ったのか、右手にペンを握って書類作業に取り組みながら、左手には酒の入った一升瓶を掴んで晩酌をはじめ、アルコールの匂いをぷんぷんさせ始めた。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)