第454話 巫の力と鬼の力
454
「ノホホン女神は〝鬼神具・太陽の鏡〟を使って桃太君に分霊を送っただろう。なにか変わったことはなかったか? たとえば、乂の短剣に宿っている狡猾なヘビが、桃太君を洗脳するような、悪事を企んでいたりだとか」
「怖いこと言わないで。だ、ダイジョブダヨ?」
異世界クマ国の代表カムロが、かぶった牛の仮面越しに鋭い視線を向けると、創世の女神であるカミムスビ、あるいは〝太古の荒御魂〟の役名で呼ばれる幽霊娘は、赤と青のオッドアイを露骨にあさっての方向へ逸らした。
(なにか知っているな。あのロクデナシ蛇め、引きこもりニートの仮面を投げ捨てて動いたのか? とはいえ、桃太君と吸血竜ドラゴンヴァンプの決戦場となった木の子の谷は、彼女の神気が強過ぎて痕跡が読み取れなかった)
カムロは女幽霊を問いただそうとしたものの、逡巡の末に踏み込むのをやめた。
彼女は女神だ。クマ国で生まれた存在は、邪悪なものであれ、慈しんでしまう悪癖がある。それを否定するのは、気が引けた。
「そうか。僕の目の黒いうちは、あの邪悪な竜……ファフニールに好き勝手はさせない。話は変わるが、それとは別に聞きたいことがあるんだ」
「わあ、珍しいね。話せることなら、なんでも答えちゃうよ!」
カムロは、女幽霊が〝やったー誤魔化せたー〟という内心の声が聞こえてきそうなくらい破顔して揺らす大きな胸の前に、二輪車の設計図を差し出した。
「さっきも言ったようにバイクの改良中でね。桃太君が持つ〝巫の力〟は〝鬼の力〟と共存しているように見える。なのになぜ、彼が蒸気バイクのような、〝鬼の力〟をもつ機械を使うと壊れるんだ? どうすれば防ぐことができるのか、先の戦いで桃太君に力を貸したキミならわかるんじゃないか?」
カムロには〝巫の力〟のことはわからない。しかし、クマ国創世の女神たる彼女は別だ。
なぜなら八岐大蛇に滅ぼされた前世界の生き残りであり、異世界クマ国において最初に〝巫の力〟を行使したのは彼女だからだ。
幽霊はハッとした顔で口元をおさえ、困ったように小首をかしげた。
「ごめん、わからないかも。だって、それならきっと、〝巫の力〟じゃなくて、機械に憑いてる〝鬼の力〟が原因だよ」
カムロは幽霊から意外な回答が返ってきて、目を白黒させた。
「そう、なのか?」
「わたしは紗雨ちゃんに憑いて一緒に地球を探検したけど、桃太君は電車やバスに乗ってるし、図書館ではコピー機で新聞を複製していたし、携帯端末やパソコンだって使えている。〝巫の力〟が機械に干渉するなら、あっちにも影響がないとおかしいでしょう?」
カムロは、自身がクマ国の視点に縛られ、複雑に考え過ぎていたのだと目から鱗が落ちた気分だった。
「確かに、そう考える方が自然だ」
「……カムロは覚えているかな? 一千年前に、クマ国の前世界を滅ぼすキッカケになったのは、八岐大蛇が干渉して作り上げた〝鬼の力が宿った機械〟だったでしょう? それを〝巫の力〟を持っていた私がぶんどって連中を痛い目にあわせたわけだけど、そのせいで〝鬼の力を持つ機械〟は〝巫の力〟が干渉しようとすると、自爆するんじゃないかなあ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)