第451話 霹靂
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「単純な推理さ。八岐大蛇は、名前通りに八つの頭がいる。元々封じられている五の首を勘定に入れても、三、四、七、とまだ四本、半数しか討たれていないんだヨ!」
「半分も討たれたら大人しく、……ああ、まるで大人しくする気がない輩が、ここに雁首を揃えていたか」
「「ハハハ」」
かつての主人である七罪業夢に解雇されてなお闘争を望んだ白髪の執事、晴峰道楽が思わずツッコミを入れると……。
新たに彼の雇い主となった異世界クマ国の反政府組織〝前進同盟〟首領、オウモは着込んだ紫色のフルプレートアーマーをガシャガシャと揺らし、一葉朱蘭は赤ら顔で酒の匂いを香水代わりに撒き散らし、離岸亜大も陰気なキツネ顔を歪め、それぞれ爆笑した。
「そういうことさネ。満勒達には次の戦いに備え、これまで落とした支城二つに加えて、本城の〝獰蛇城〟を落とし、〝三連蛇城〟を完全占拠してもらうよ。知名度の向上を狙えるし、万が一の際に拠点があると便利だからね」
「それはいいが、朱蘭殿と亜大殿、そして私は顔を出すわけにはいかないだろう?」
道楽の問いかけに、オウモは頷いた。
「ああ、一葉朱蘭。離岸亜大、晴峰道楽の三人は地球方面には配属できない。実はクマ国でやってもらいたい重要な任務があるんだヨ」
「へえ」
「どんな任務ですかい?」
「詳しく聞かせてもらおうか」
オウモの真剣な声音に、名指しされた三人。特に道楽は、クマ国侵攻をたくらむかつての主人に置いていかれた経験もあって、興味津々とばかりに目を輝かせた。
「晴峰道楽。お前が元主人の七罪業夢から贈られ、六辻剛浚に奪われた戦力――。
式鬼・野鉄炮、式鬼・模壁鬼、式鬼・火竜は、そもそも吾輩が地球で亡んだ国々の民から抜擢した〝前進同盟〟の幹部、リノーとゼンビンに防衛の要として預けていたものなんだヨ。
身勝手に売りさばくなんて、やつらの動きはいくらなんでもおかしい。カムロがいるから大丈夫だと思うが、クマ国がきなくさくなってきた」
道楽はほうと頷き、剣呑な笑みを浮かべる。
「なるほど半世紀前に地球で冷戦が終わったキッカケは、〝鬼の力〟を暴走させた東側諸国の自壊によるものだった。彼らの末裔がクマ国で更なる混乱を引き起こすかも知れない、ということか。いいだろう。業夢様は好きに生きろといった。ならば命尽きるまで、鉄火場にて我が身を試したい。出雲桃太、我が旧主を破りし宿敵を討つためにも、まずは我が身のサビ落としと参ろうか!」
「その意気だ。活躍を期待しているよ」
オウモは別働隊となった朱蘭達と別れ、蒸気バイクにまたがった。
「カムロ、気づいているかい? 異界迷宮カクリヨと八岐大蛇を滅ぼし、地球とクマ国の繋がりを断ち切って――〝あるべき元の世界に戻す〟。クマ国代表らしい、実に保守的な目的サ。だが、そのゴールは、果たして出雲桃太クンと、彼の上司である獅子央孝恵代表に受け入れられるものかね?」
あとがき
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