第４３話 断罪
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灰色髪の剣鬼、鷹舟俊忠は、互いのハラワタを食い合う、親子二体の石像に困惑した。
「弘農楊駿と弘農楊子は行方不明になったのではなく、すでに死んでいた？」
「妾が折角かくまってやったのに、二人とも〝鬼の力〟に耐え切れずに共食いを始めおったのよ。良い記念碑になると、石に変えた死体を夫に見せたら喧嘩になってのう。夫婦生活とは難しいものよ」
「やはりっ、すべてがお前のせいだったのか！」
鷹舟は、左目尻に傷のある妖艶な美女、獅子央賈南を断罪せんとばかりに、愛刀を向けて言い放った。しかし。
「鷹舟よ、すべてとは何か？」
賈南は瀕死の重傷にもかかわらず、澄ました顔で逆に問いかけた。
「己が実力を勘違いした弘農楊駿が、日本国支配を謀って自滅したことか？」
「優柔不断なだけの一葉亮が、勇者党の後始末に耐えきれず鬼に堕ちたことか？」
「青臭い正義感にかられた二河瑠衣と五馬家が、異界迷宮で元同胞を討ったことか？」
賈南の問いが重なるたびに、鷹舟は息を荒げて、まるで敗者であるかのように後ずさった。
「それとも……、出世欲に駆られたお前が、他の誰でもない鷹舟俊忠が、幼い矢上遥花が振った正式な停戦軍旗を無視し、武器を捨てた二河家と五馬家当主を襲ったことか？」
「違う、俺サマは凛音の為に」
鷹舟は強がって声を絞り出すも、構えた刀の刃先はブルブルと震えていた。
「すべて、手をくだしたのはお前達よな。だが、正しいよ」
「なんだと？ ひっ」
鷹舟の疑問に応えたのは、頼みとする〝鬼神具〟……即ち、彼の両腕だった。
〝茨木童子の腕〟と名付けられた、機械仕掛けの義手に目鼻がついて、開いた口から言葉を発したのだ。
「空間干渉兵器〝千曳の岩〟を動かす為には、膨大なエネルギーが必要だ。お前たちは祈りや供物ではなく、仲間を生贄に費やした。もう気づいているのだろう、鷹舟俊忠。お前もまた妾と同じ鬼、否、八岐大蛇と成り果てたのだから！」
「うそだ、うそだあああ」
鷹舟はあまりの事態に狂乱し、ただひたすらに暴れた。椅子を壊し机を壊しベッドを壊しても、目の前の悪夢は覚めない。
「鷹舟よ。かの英雄、獅子央焔が、なぜこの人工島〝楽陽区〟を作ったと思う？ 万が一の時、無垢なる赤子や幼子を逃がすための方舟とするためよ。お前の中にも、凛音という小娘の中にも〝妾〟がいる。この地球という世界全てが、もはや八岐大蛇があぎとの中よ！」
「だまれ、だまれえ」
鷹舟は狂ったように賈南の肉体に斬りつけて、脱兎の如く走り出した。
「凛音、今、助けに行く。俺サマは、俺サマだけはお前の味方だ。どんな汚い手を使っても、必ずお前に光射す未来を与えてやる……」
「ああ素晴らしい。恵んでやる導いてやると、勘違いした上から目線。世を変える為ならば手段を選ばずとも良いという、身勝手な免罪符。下劣な妄執に溺れた八大勇者パーティは、妾達の養分となる最高品質の生贄だ」
獅子央賈南の髪は抜けて、目もおちくぼみ、肌の色も死人のように変わっている。
人間としての彼女はとうの昔に死に、今や八岐大蛇の化身となった鬼女は、赤い霧と黒い雪に溶けながら大口を開けてケタケタと笑った。
「妾ら竜の眷属が、自らの世界を喰らい尽くして幾星霜……。異界に棲む同胞の手引きで、クマ国に攻め込むも手痛い反撃を受けた。
だが、北の愚者どもが二つの世界を繋いでくれたお陰で、妾達は地球という新しき贄を得たのだ。
もはや時代遅れの幽霊が抗おうと痛痒もなし。太陽の写し身たる鏡は失われて久しく、我らを討つ刃は錆び付き、我らを鎮める勾玉もひび割れた。
八岐大蛇の復活はもはや誰にも止められない、妾達の勝利だ！」
あとがき
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