第440話 活路はあるのか?
440
「黒騎士。長篠の戦いで武田家が負けたのは、織田家が使う鉄砲という新しい兵器を知らなかったからか?」
「初見殺しなら、しかたないでち」
「いや、そんなことはないはずだ」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士は、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟を束ねる鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒と、彼の背におぶさる鉄塊めいた外見の妖刀ムラサマの質問に対し、首を横に振った。
「いくら鉄砲が新兵器といっても、長篠の戦いが起きたのは、外国から伝わってからおよそ三〇年後だ。武田家を含む他の大名家でも使われていたし、雑賀衆や根来衆といった、当時の日本を股にかけた傭兵達が、織田家に先んじて鉄砲を用いる戦術を構築していた……という説もあるくらいだ」
黒騎士は解説しながら、改めて長篠の戦いを検討した。
テロリスト団体〝SAINTS〟の指揮官、ペンギンを連想させる重武装の男、祁寒鼠弘が例にあげた〝長篠の戦い〟の勝敗を決めたのは、単に〝鉄砲が強力な兵器だったからだけ〟ではない。
織田信長という鬼才が、〝戦場全体を極めて有効に運用した〟からだ。
「長篠の戦いで着目すべきは、織田家が戦場に流れる川を城の堀代わりに使い、馬の侵入を防ぐ柵を立てるなど、地形に手を加え……、騎馬隊の機動力を奪い、遠距離攻撃で仕留める防衛陣地を構築したことだ。
私たちの目的地である城〝豹威館〟へ続く道、およそ一〇キロを氷で固めた第四の要衝〝氷結地獄〟もまた同様のコンセプトと見ていいだろう。何も考えずにあの氷の陣地に突っ込めば、それこそ武田家の騎馬隊のごとく撃ち倒される」
黒騎士の解説に、満勒とムラサマは頭を抱えた。
「お、おう。敵兵の矢や式鬼の銃で撃たれるのも勘弁だが、バイクで氷の上を走ったら横転して死ぬものなあ」
「むむむ、やっかいでち。攻めるに攻められず、かといって引き返すわけにもいかない、フクロコウジでち」
黒騎士もまた、柿色のユニフォームをまとった〝SAINTS〟団員が放つ矢雨や、カンガルーに式鬼・野鉄炮が吐き出す銃弾を飛行盾で防ぎ、あるいはバイクを走らせて避けながら、同意した。
長篠の戦いにおいて、武田家は退却を選ばず、不利を承知で織田家との交戦に踏み込んだ。
諸説あるが、武田家当主の勝頼が家臣の信頼を得られておらず、勝利をもぎとらなければ、家が瓦解するというリスクを負っていたからではないかと現代では推察されている。
(そして、勝たなければならないのは、今の〝G・C・H・O・〟も同様だ。
もしここで勝利を諦めてしまえば、トータ達、冒険者パーティ〝W・A〟の名声に大差をつけられ、飲み込まれることだろう。親友としては誇らしいが、トータはそれだけの戦果をあげている。
それでは――腐敗した八大勇者パーティの世を覆すという、私や満勒達の願いが叶わない)
黒騎士達が迷う間にも、〝鬼の力〟を用いた敵の攻撃は更に激しさを増してゆく。
「あ、あれ? 離れているのに、バイクの動きがおかしいぞ」
「う、うわああ。寒さでエンストしました」
その一方で、味方のバイク隊は天敵のような気候条件のせいで絶不調だ。
「こ、これはまずい」
まさに絶体絶命のピンチ。
その時、満勒があたかも天啓を得たように大声で叫んだ。
「ヒャッハァっ。突破口がわかったぞ、黒騎士。陸がダメなら空を走ればいい。織田信長に〝長篠の戦い〟へ引きずり込まれた武田勝頼のように、敵のやり方に付き合う必要なんてないんだ!」
あとがき
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