第439話 難攻不落の陣立て
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「待て待て黒騎士。先走るんじゃない。こういう時こそ冷静に対策を練らなきゃな。まずはあのキカンシャでソコツモノみたいな名前の城主が言っていた、長篠の戦いについて教えてくれないか?」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士は激情の赴くままに突出しようとしたところを、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟を束ねる鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒や他の団員達の手で引き戻された。
「「俺たち、学校に通えなかったので、歴史とかよくわからないです」」
黒騎士と共に戦う若者達の多くは、腐敗した八大勇者パーティの指導者達――。
七罪業夢に囚われて人体実験に晒されたり、六辻剛浚に拉致されて海外で強制労働を強いられたりと、学校にも通えない悲惨な少年時代を送っていた。
「黒騎士、矢と銃弾の中をがむしゃらにつっきるのはむちゃでち。ぎりぎりとどかない距離でしのぎつつ、作戦を考えるでち」
「セグンダ師匠は出張中で頼れない。俺様達の手でやり遂げるしかないんだ。あの氷の陣地を攻略するヒントになるかも知れないから、長篠の戦いについての情報が欲しい」
黒騎士は〝鬼神具〟である鉄塊の如き妖刀ムラサマと、彼女を背負う満勒に諌められて……。
(私も熱くなり過ぎた。古代の英雄には、学問の機会は得られずとも、〝聞く〟ことで格段の成長を遂げた者もいるという。三つの要衝を越える連戦でこちらの消耗も激しいし、ここは小休止が必要か)
兜の赤く光る視覚素子で着ぶくれたペンギンに見える敵指揮官、祁寒鼠弘をにらみつけるも、ひとまず怒りを飲み込んだ。
「わかった。長篠の戦いについての解説は、ホバーベースのハンドルを握る炉谷道子さんにお願いしたいところだが……。
彼女は第三の要衝〝堕天使の楽園〟でクロスボウについて独演会を始めたように、歴史好きのあまり話が脱線する悪癖がある。ならば、私がやろう」
黒騎士は傷付いた愛盾を背負いなおし、満勒達へ向き合った。
「満勒大将、そして皆も聞いて欲しい。何百年もの昔、日本では大名家という、冒険者パーティのような集団が争っていた戦国時代があった。〝長篠の戦い〟とは、その頃、織田家約四万人と、武田家約二万人が、現在の愛知県にある長篠城を巡って衝突した戦いを指すんだ」
黒騎士が解説を始めると、満勒が興味深そうに巨体を乗り出す。
「おおっ。ちょうど俺様達、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟と、テロリスト団体〝SAINTS〟も〝三連蛇城〟を取り合っているし、親近感がわく話だな。で、どっちが勝ったんだ?」
「そして一般的には……、長篠の戦いは、新兵器である鉄砲を大々的に導入した織田家の軍勢が、伝統的な騎馬隊という機動力に勝る武田家の軍勢を撃破したことで有名だ」
が、黒騎士が戦いの結末を告げた途端――。
「よりにもよって鉄砲かよ。武田家の騎馬隊って、俺様達のバイク隊みたいなものだよな。負けたのか」
「「残念っす」」
因縁のある鉄砲という単語と親近感のある騎馬隊の敗北を聞いて、満勒とバイク隊員達は塩をかけられたナメクジのように、しゅんと肩を落とした。
「黒騎士。長篠の戦いで武田家が負けたのは、織田家が使う鉄砲という新しい兵器を知らなかったからか?」
「初見殺しなら、しかたないでち」
「いや、そんなことはないはずだ」
あとがき
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