第438話 晴峰道楽の置き土産、〝氷雪地獄〟
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「満勒、黒騎士。あっちを見るでち。氷の陣が張られているでち!?」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士と、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟を率いる鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒は、日本人形めいた少女の姿に化けた妖刀ムラサマの示す方角を見て、バイクの上で揃って目を見開いた。
彼らの前に立ちはだかったのは、大量の鉄パイプを組み合わせ、有刺鉄線を巻き付けた馬防柵で覆った、およそ一〇キロメートルに及ぶ完全防御の陣地だった。
おまけに高温である残火の洞窟にもかかわらず、周辺一帯は雪が舞い、足元は氷でツルツルに凍りついている。
「氷の陣地だって? あんなところを蒸気バイクで走ったら、さっきみたいにスリップしちまうよ」
「下手をすれば事故で全滅でち!」
「いかん、こんな対策があったとは!?」
三人が動揺を隠せない中――。
「キーキーッ。驚いたか。〝弓兵地獄〟、〝要塞地獄〟、〝堕天使の楽園〟は新戦力こそ配備したものの、所詮は型落ちにすきん」
冷え冷えと凍りついた砦の中で、厚手のコートにマフラー、手袋などを何重にも着込み、ぱんぱんに着膨れした格好の偉そうな男が見張り台に登り、意気揚々と鬼神具らしき書物をかかげた。
「愚民共に光を示し、救世を為す勇者パーティ〝SAINTS〟が作りあげた偉大なる拠点、〝豹威館〟。その城主である祁寒鼠弘様が命ずる。我が鬼神具、真正奥義書よ力を示せ。舞台登場 役名宣言――〝堕天使〟!」
黒騎士達が探していた指揮官は、コウモリのような翼を背から広げて高笑いする。その様はまるでマンガなどに出てくる誇張化されたペンギンのようだが、まるで可愛げがない。
「キーキーッ。大人しくモルモットをやっていれば良かったものを。不良どもめ、長篠の戦いを知っているかな? 行方不明となったうさんくさい執事、晴峰道楽が残した設計図を元に作り上げた第四の要衝〝氷雪地獄〟、存分に味わうと良い」
祁寒鼠弘は、高笑いをやめ、部下達に合図を送るように右腕かかげ、勢いよく振り下ろした。
「もっとも、貴様らのような愚者どもは近づくことさえできまいがな」
すると、およそ一〇キロに及ぶ長大な陣地から、待ってましたとばかりに矢が放たれ、雹弾や氷柱といった鬼術が降り注いだではないか?
「BABAN!」
おまけに陣地の中には、第一の要衝〝弓兵地獄〟で戦った、カンガルーに似た銃弾を吐き出す獣、〝式鬼・野鉄炮〟までが混じっている。
「安い挑発をっ。聞いていれば、この要衝。お前の力ではなく、七罪家と〝K・A・N〟所属の晴峰道楽とやらが残した置土産ではないか!」
黒騎士も、〝G・C・H・O・〟の仲間達を馬鹿にされ、数人の仲間と共に思わず矢と銃弾の雨中へ飛び出した。
が、彼が頼みとする全長三メートルの飛行盾は、先の式鬼・火竜との戦いで半壊している。
盾としてならまだしも、移動手段としては使用不能だ。
「くっ、バイクどころか足で走ることもままならないかっ」
「ひえええええ」
おまけに、足場が最悪だった。
さしもの黒騎士達も氷の上を動くのは困難で、バイクを降りてひよこのようにヒョコヒョコと進もうとしてなお、つるつるとすべってしまう。
「待て待て黒騎士。先走るんじゃない。こういう時こそ冷静に対策を練らなきゃな。まずはあのキカンシャでソコツモノみたいな名前の城主が言っていた、長篠の戦いについて教えてくれないか?」
あとがき
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