第436話 呉陸喜は明日へとはばたく
436
「黒騎士いいいいっ!?」
「ぎゃははは。式鬼・火竜は無敵だあああ」
冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟の総大将たる、鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒は戦友のバイクが火竜のブレスを受けて焼失する光景を見て、喉が裂けるほどに絶叫した。
「満勒大将、心配御無用。私はここだ」
しかし、実のところここまでの展開は、黒騎士の想定通り。
彼はすぐさま全長三メートルの飛行盾に乗り換え、爆発四散したバイクを囮に、火竜の脇腹をすりぬけるようにしてナイフで一文字に切り裂いた。
「トータは吸血竜ドラゴンヴァンプに勝ったのだ。ならば私にできないはずがない」
黒騎士は、自らの義腕と鎧が闘争に燃えていることを自覚した。
二体の鬼が力を貸してくれる以上、必ず勝てると確信する。
「GUOOO!」
手傷を負った火竜は吠え猛り、式鬼の特性を活かし、猛禽類の翼から数百枚もの呪符の束を撒き散らし、半径一〇メートルを何本もの火柱で延焼させた。
「なるほどたいした大技だが、私の想定する好敵手の技よりはぬるい」
されど、飛行盾に乗った黒騎士は、さながら舞い落ちる木の葉の様に爆風に吹かれながら、業火の柱をヒラヒラと避けてゆく。
「これが、トータの我流・螺子回転刃を破るために編み出した新技!」
実のところ、黒騎士には、出雲桃太の必殺技〝生太刀・草薙〟に対抗するすべがある。
スポンサーであるオウモだけが知っていることだが……、黒騎士の正体は桃太の親友、呉陸喜であり、桃太の体捌きに誰よりも詳しい上に、技のでがかりを潰すほど精密に〝鬼神具〟を使いこなせるからだ。
そんな彼が、最も恐れる親友の技を破るために作り上げた空戦機動こそ……。
「零式艦上戦闘機のお家芸とされた空戦機動から名付けて、〝木の葉落とし〟だ」
黒騎士は精密な〝鬼の力〟の操作で、風に巻かれる落ち葉のように変幻自在な動きを実現し、火竜の砲弾めいたブレスや足の爪を避けながらナイフで急所をえぐる。
「これでしまいだ!」
「GYAAAA!」
黒騎士が桃太を彷彿とさせる一撃で火竜の首を落とすや、最後にしっぺ返しとばかりに自爆。
「やるなっ」
黒騎士は危うく防御に成功――。
盾には穴が空き、半ばが焼けたものの、無事に着地できた。
(いまだ未熟か。だが、トータ。私は前へ進む。その時こそもう一度雌雄を決しようじゃないか!)
式鬼とはいえ、竜殺しをなしとげた黒騎士は拳を高々とつきあげた。
「さあ、悪逆無道のテロリスト共に、私達の底力をみせつけてやろう」
黒騎士のバイク隊の仲間達が、蒸気バイクに設置されたネジ仕掛けのクロスボウで射落としてゆく。
「「「いやっあはあは。やったれええ!」」
「「「ぎゃあああああああああ」」」
かくして黒騎士達、冒険パーティ〝G・C・H・O・〟は、テロリスト団体〝SAINTS〟が守る三つの要衝、〝弓兵地獄〟、〝要塞地獄〟、〝堕天使の楽園〟を一気呵成に突破した。
「満勒大将。残念だが三つの要衝には、敵総大将の六辻剛浚はもちろん、〝豹威館〟の城主もいないようだ」
「城主は、たしかキカンシャだかソコツモノだか、変な名前だったよな。城で高みの見物ってことかよ。黒騎士、予備のバイクを使ってくれ。野郎ども、このまま豹威館を落とすぞ」
「「うおおお」」
このように脇目も振らずに前進する満勒達の電光石火の早業は、最前線で戦う他の冒険者パーティを勇気づけた。
「あれが、石貫満勒。あれが冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟!」
「ひょっとしたら、新しいヒーロー、出雲桃太と冒険者パーティ〝W・A〟よりも強いんじゃないか?」
この活躍は、石貫満勒を出雲桃太の対抗馬として押し上げることになる。