第434話 堕天使の楽園、その守護者
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「ええ、鉄砲は使えませんとも。ですが、クロスボウ……弩は、紀元前の古代から使われているのですよ」
冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟の移動拠点。
大型バスに似たホバーベースのハンドルを握る炉谷道子は、自らが改造を手伝った蒸気バイクの連発式クロスボウがテロリスト団体〝SAINTS〟の飛行部隊を相手に確たる成果をあげたことで、上機嫌になった。
「「く、くそう。おかしいだろ。どうやってボーガンを連発してるんだよ!?」」
「よくぞ聞いてくれました。弦の引き上げと矢の再装填に工夫があるのです。そも大陸の三国時代には、軍師として名高い諸葛孔明が連弩という連射可能な機械弓を作りだしたとされ……」
道子のテンションのあがりようは留まるところを知らない。
背から翼が生え、空飛ぶ箒や絨毯に乗った敵兵達の叫びに対し、拡声の鬼術を使ってまでうんちくを語り始めたではないか。
「い、いかん、道子によくないスイッチが入りおった」
助手席に座る着物姿の老人、六辻久蔵が止めようとするものの、早口でマシンガンのように語り始めた道子は容易には止まらない。
「満勒よ、長演説は無視して戦闘続行じゃ」
「わかったぞ久蔵爺さん。そういうわけで、銃はダメでも、クロスボウ、弩なら問題ないらしいからなっ。対空防御も万全ってわけよ!」
「「いやっふう。ぶっとばしてやるぜええ」」
鉄塊の如き大剣をかついだ鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒を先頭に、約一〇〇台の蒸気バイク隊は高機動で空からの爆撃を避けつつ、リアボックスに設置された五台のクロスボウから矢を放ち、柿色のユニフォームを着た〝SAINTS〟の爆撃隊二〇〇人を追い詰めてゆく。
「こうなったら狙いはリーダーだ。満勒とかいう目立つクソガキを潰せ」
「それができるなら世話ネーヨ。あれは囮だ。本当にヤバいのは」
「あの空飛ぶ盾を操る黒騎士だ」
利権目当ての犯罪者といえ、クーデター軍の首魁、六辻剛浚の親衛隊に選ばれたのは伊達ではないようだ。
敵飛行部隊も、バイク隊を守る要が漆黒の蒸気鎧を身につけた副官だと気がついたらしい。
上空からの鬼術の爆撃では仕留めきれないと見て、急降下攻撃を仕掛けてきた。
「ハッ。私を討ちたければ、トータ……出雲桃太を連れてこい」
「そいつは我々の敵で、お前達の味方だろうが。あばばっ」
「「ぐあああああ」」
が、黒騎士の正体は、桃太の親友であり、彼が好敵手として憧れた男、呉陸喜だ。
彼は、一方的に有利な立場からの爆撃に慣れた弱兵達の剣や槍を籠手で打ち払い、鎧袖一触とばかりに地へ叩き落とした。
「こ、こうなったらやむをえない」
「できれば使いたくなかったが、〝堕天使の楽園〟の新しい守護者のお披露目だ」
どうやら、豹威館を守る第一の要衝〝弓兵地獄〟の野鉄炮、第二の要衝〝要塞地獄〟の模壁鬼に続き、第三の要衝にも新戦力が配備されていたらしい。
荒野の隅にひっそりと建てられた天幕。その檻の中から、獅子のようなたてがみを持つ全長三メートルの猛禽類の翼をもつトカゲが解き放たれ、空を舞う。
「GUOOOOO!」
空飛ぶトカゲの吐く炎の塊は、異界迷宮カクリヨの第八階層〝残火の洞窟〟の岩の荒れ地に大きな穴をあけた。
「これこそは、我らが主人、六辻剛浚様が、七罪家の執事、晴峰道楽より召し上げた切り札中の切り札、〝式鬼・火竜〟だああ」
あとがき
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