第433話 バイク隊の新兵装
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「道子さんの言うことは話半分に聞いておけよ。ムラサマちゃんの望みと逆方向だぞ」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士は、なにやら怪しい方向へ引っ張られている日本人形めいた少女ムラサマをなだめつつ、自らがまたがった蒸気バイクのエンジンをふかした。
(それにしても、先ほど交戦した〝式鬼・模壁鬼〟。標的を壁の中に取り込み、懐かしい思い出を夢に見せながら溶かし殺すとは、えげつないにもほどがある)
テロリスト団体〝SAINTS〟の団員曰く、七罪家と〝K・A・N〟が異世界クマ国から仕入れたそうだが、危険極まりない。
もしもムラサマがカラクリに気付かなければ、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟は全滅していたかも知れない。
(代表の石貫満勒やムラサマちゃん、他のバイク隊員の話を聞くに、私も亡くなった父母が出てきそうなものだが、まさかトータと元勇者パーティ〝C・H・O〟で過ごした日々だったとはな)
黒騎士は模壁鬼が見せる夢の中で、存分に桃太と腕を競った。
夢の中のバトルは楽しかった。
楽しかったのだが、同時に奇妙な物足りないさも感じていた。
(目が覚めてわかった。記憶の中のトータと戦っても、これまで見た通りの動きにしかならないのだ。天候地形仲間、ありとあらゆる条件を手札として利用するのが、私の好敵手だ。だからこそ、本物と戦って勝ってみたい)
黒騎士が改めて決意を固め、バイクを進めると、いよいよ第三の要衝たる荒野が見えてきた。
「第一の要衝〝弓兵地獄〟と第二の要衝〝要塞地獄〟を突破したようだな」
「だが、所詮あれらは前座」
「我々の本領を見せてやる」
満勒達が踏み入った防衛陣の名は〝堕天使の楽園〟。
柿色のユニフォームに身を包んだテロリスト団体〝SAINTS〟の団員およそ二〇〇人は、翼の生える書物や、空飛ぶ箒、絨毯といった〝鬼神具〟を使って空を飛び、矢を射ながら火薬瓶を投げつけてきた。
「これはまずいぞっ。飛行盾、防げ」
黒騎士は早速、背負っていた全長三メートルに及ぶ盾を飛ばして防御するが、他勢に無勢だ。
「数は少なくなったが、空からの攻撃なら勝てるはずだ」
「天翼隊と呼ばれた、我らの本領を見せてやる」
「このまま焼き尽くす」
敵精鋭部隊は、編隊を組みながら上空から一方的な攻撃を繰り返し、戦場に転がる人間よりも大きな岩をあたかも粘土細工のように容易く破壊した。しかし。
「ヒャッハァ。〝禁虎館〟を攻略した時に一度突破したんだ。こっちが対策していないと思ったか。者共、秘密兵器の準備だ。三秒後に発射するぞ」
「「さん、にい、いち、ぜろおお!」」
先頭に立つ満勒のカウントに合わせ、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟のバイク隊員達は、ハンドル下部に設置された引き金をひく。
するとバイクのリアボックスが開き、横倒しになった弓が五台上空へ向けて鉄棒を次々に射放って、数体を撃墜した。
「「ぎゃあああ」」
「「な、なんだこれはっ。鉄砲は使えないはずでは!?」」
驚愕する空を舞う敵兵に対し、後方を走る〝G・C・H・O・〟の移動基地、ホバーベースのハンドルを握る炉谷道子が勝ち誇ったように告げた。
「ええ、鉄砲は使えませんとも。ですが、クロスボウ……弩は、紀元前の古代から使われているのですよ」
あとがき
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