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第431話 妖刀は過去ではなく今を選ぶ

431


「カカカっ。このジローさんを甘くみちゃいけねーよ。この前もどでかいドラゴンを片付けて報奨金を得たんだ。おかげで賭場とばでウハウハよお」


 髪をいくつもの縄状に結えたドレッドロックスヘアにまとめ、左目と左腕を失った隻眼隻腕せきがんの男は、げらげら笑いながら茶碗に焼酎しょうちゅうを注ぎ、小屋の囲炉裏いろりにかけたヤカンからぬる湯を加えて一息に飲み干した。

 日本人形めいたおかっぱ髪の少女、ムラサマは記憶と寸分違わぬ男の姿に嘆息する。


(なーにがジローでちか。毎回違う名前を名乗っていたから、あたちはオジサンと呼んでいたんでち。あと奥さんからは賭け事は負けてばかりで勝ったなんて話、一度も聞いたことがないでち)


 竜を倒した――という言葉に嘘はあるまい。

 一千年前のクマ国で、ムラサマの養父が〝人類最強の一角〟と呼んだ彼は、重い傷を負ってなお、あのセグンダに匹敵する別格の達人だ。


(でも)


 オジサンは、いいかげんなひとだった。

 酒を飲んでは酔っ払い、養父母や他の兄弟に絡んで、たやすく返り討ちにあっていた。

 時には賭場通いが過ぎて、奥さんからもボコボコにされていたから、戦場以外ではどうしようもなくだめな人だったのだろう。

 だが、そんな兵器みたいなヒトだったからこそ、ムラサマに一番よくしてくれた。


「オジサン、前にあたちへ言ってくれたことは、おぼえているでちか?」

「おう、このキサラギさんに任せておけよ。姉貴、お前の養母かあちゃんと養父とうちゃんとの愁嘆場しゅうたんばなら、一から百話まで話せるぞ。どんな話がいい?」

 

 そんなものを聞きたい娘はいないだろう、とムラサマはげっそりする。


「違うでち。恋についての話でち」

「お、あれかあ? 血のつながりはないけど、お前は姉貴に一等似ているよ。だから、恋をするなら戦場かもな……って言った」


 ムラサマが深く頷くと、ヤカンがようやく温まったのかシュワシュワと音を立てた。

 記憶の中の迷宮とやらで、愛しい養母でもなく、頼れる養父でもなく、名前もわからないオジサンが出てきたのは、きっと……そういうことなのだろう。


「オジサン。さいきんは、スサノオの真似するカムロとか、その技をついだ出雲桃太いずもとうたとかと出会って、迷っていたんでち。あたちはもう一度、オジサンに背中を押してもらいたかったんでち」


 ムラサマは着物の袖から鉄線を取り出して、すっくと立ち上がった。


「なんだよ。このフタバさんが、今からとっておきの茶を入れてやろうと思ったのに、もう行くのか?」


 ムラサマも、本当はもう少しだけ優しい記憶にひたっていたかった。でも。


「あたちは、へいわなクマ国じゃくて、らんせの地球で生きると、運命の相手をみつけると決めたでち」


 恋をしたいと養父母の制止をふりきり、一千年の時を眠った。

 彼女が選ぶ場所は、過去ではなく今だ。


「そうかよ。案外身近にいるかもね。なにせこのジョージが最も愛する嫁さんは、元は妹分だったんだ」

「その、のろけ話は耳にタコでちよ」


 ムラサマはふと『自分はオジサン夫妻に憧れていたのかもしれない』などと、たわいもないことを考えた。

 

「じゃあ、な」

「ええ、さよならでち」


 日本人形めいたおかっぱ髪の少女ムラサマが鉄線を投げつけると、ドレッドロックスヘアのオジサンは、彼女をいつくしむように笑って受け入れた。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >賭場でウハウハよお 女神「へぇ、お兄ちゃん、賭けで大もうけしたんだ。じゃあ、みんなに宴の準備をするように頼んでおくね」 2「勘弁してくれでゲス」
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