第430話 模壁鬼と記憶の迷宮
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出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士と、鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒が率いる冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟は辛い過去の記憶をのりこえ、テロリスト団体〝SAINTS〟の本拠地〝三連蛇城〟への道を阻む第一の要衝、〝弓矢地獄〟を突破した。
「どうしてこんなことになってしまったんだ!」
「俺たちは偉大な勇者パーティだぞ。ちょっと銀行を襲ったり、過去に人身売買や死体実験をしたくらいで、責められるのはおかしいじゃないかっ」
第二の要衝は〝要塞地獄〟。
蒸気鎧に身を包んだテロリスト達が、剣や槍を手にわらわらと迎撃に出るが、彼らの顔色は悪く士気も目に見えて低かった。
なにせ第一の要衝、〝弓矢地獄〟を守る新戦力、〝式鬼・野鉄炮〟が討たれたばかり。おまけに彼らの籠る要塞が鉄筋コンクリートをうたう、竹の筋と発泡スチロールのやわやわ装甲だったのだから無理もない。
「よくもそれだけの悪業を重ねた!」
黒騎士が背負った巨大な盾をぶつけて、ニセモノのコンクリート壁を削り取り――。
「もう勇者パーティじゃななくて、犯罪者だろ」
「でちでーち! 悪党はお縄につくでち」
満勒も大剣となったムラサマを振るって、目の前に立ちはだかる壁もどきをばったばったと粉砕する――。
「いいや、まだだ」
しかし、はりぼての要塞にこもる柿色のユニフォームを着たテロリスト達の目は、いまだ邪悪な光に輝いていた。
「新戦力が配備されたのは、〝弓矢地獄〟だけではないぞ」
「七罪家と〝K・A・N〟が異世界クマ国からもたらした〝式鬼・模壁鬼〟は、人の心と感覚を狂わせる」
「お前達は、記憶の中の迷宮へ落ちるがいい」
そう〝要塞地獄〟の守備兵達が言い放つや、コンクリートを模したすかすかの壁から、巨大な腕が飛び出したではないか?
「満勒、あぶないでちっ」
「ムラサマっ!?」
大剣の姿だったムラサマは、満勒を守ろうと腕に切り付けるも、もろともに捕まって壁の中へと吸い込まれ――。
「「う、うわああ、飲み込まれる」」
黒騎士をふくむ冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟の面々もまた、〝式鬼・模壁鬼〟によって壁の中へと引きずりこまれた。
◇
しんしんと雪が降る音と、ぱちぱちと薪の爆ぜる音が聞こえる。
ムラサマは気がつけば、日本人形めいたおかっぱ髪の女の子の姿に変わって、古びた日本家屋の畳敷の床間に座っていた。
(ここは?)
ムラサマの眼前には、薪を燃やすための正方形に区切られた囲炉裏があり、簡素な板作りの窓の隙間からは、まっしろに輝く雪景色が見えている。
(あたちが眠りに着く前のクマ国でちね。記憶の迷宮って、過去を見せることでちか?)
現代でこそ美しい四季を取り戻したクマ国だが、一千年前に八岐大蛇の軍勢と戦っていた頃は、異常気象に見舞われて長い冬が続いていた。
「よう、ムラサマ。元気してたか?」
ムラサマがキョロキョロと見回していると、床間より一段低く作られた土間から、右手でヤカンを掴んだ中年男が囲炉裏の向かい側までやってきた。
「あたちは元気でち。オジサンこそ大丈夫でちか? また怪我をしたんじゃないでちか?」
ムラサマは、中年男のことを良く知っていた。
ドレッドロックスと呼ばれる、髪をいくつもの縄状に編み込んだ特徴的なヘアスタイルで、左目と左腕を失うほどの大きい怪我を負っていたから、他人と間違えるはずもない。
ムラサマを育てた養母の弟にあたる人物らしいが、戦場でも日常でも生傷の絶えない生活を送っていた。
「カカカっ。このジローさんを甘くみちゃいけねーよ。この前もどでかいドラゴンを片付けて、報奨金を得たんだ。おかげで賭場でウハウハよお」
あとがき
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