第428話 覇者よ、過去を乗り越えよ
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「「そうか、そうか。売られた先で銃に撃たれたか?」」
「「ギャハハ、撃てえ、奴隷のガキどもを撃ち殺せええ」」
「「お前達のような出来損ないのモルモットは、俺達エリートに使われるのが宿命なんだよ」」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士は、柿色のユニフォームを着たテロリスト団体〝SAINTS〟が投げつけてくる下品な罵声を聞いて、戦友達が銃を見ただけめパニックに陥った事情をおおよそ理解した。
(スポンサーのオウモさんは、既存の八大勇者パーティに虐げられた若者を集めて、冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟を結成した)
黒騎士自身、元勇者パーティ〝C・H・O〟で銃殺され、蘇生された過去があるし――。
セグンダは、暗殺され実験で弄ばれた元勇者パーティ〝S・O〟代表、二河瑠衣の遺体から生まれ――。
炉谷道子は、影武者ではなく本物の主君に忠義を尽くしたがゆえに〝SAINTS〟を追われるなど――。
誰もが八大勇者パーティによって、心と体に深い傷を負っていた。
(満勒大将が年齢に比べて妙に子供っぽいというか、世慣れていない一面があった理由は、過去にあったのか)
いつもは豪放磊落に見える冒険者パーティ〝G・C・H・O・〟のリーダー。鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒もまた、幼少期に人身売買の被害に遭い、銃の恐怖にさらされる、悲惨な生活をおくっていたのだろう。
「「BABAN!」」
「うわあ。いてえ、いてえよお」
「負傷者、転倒者はホバーベースへ退避を!」
恐慌状態に陥ったバイク隊員は銃撃を避けられず、一人また一人と撃ち落とされてしまう。
「ムラサマ! 満勒大将を頼む。装甲の厚い私が殿をつとめる。一度仕切り直すぞ」
黒騎士は、このままでは敵本拠地の〝三連蛇城〟を攻略するどころか自軍が壊滅すると判断し、満勒の背におぶわれた日本人形めいた少女ムラサマへ呼びかけた。
「わかったでち。満勒、落ち着いてもういちど挑戦するでち」
ムラサマが白く小さな手で、ぶるぶると震える満勒の広い背中を優しく撫でた。
「ま、待て、黒騎士。ダメだ、今はダメだ。ここで退いたら、俺様達は二度と立ち上がることができなくなる」
しかし、満勒はムラサマと黒騎士の提案を拒絶した。
「満勒、大丈夫でちか?」
「満勒大将。私が言うのはなんだが、死ねば終わりだぞ」
「二人ともすまん、昔のことを思い出していたよ。ガキの時分に言葉も通じない外国に売られて、銃で何度も脅しつけられてよ。でも、おかげでムラサマ。黒騎士、お前達と出会えた」
満勒は、噛み合わない歯を力任せに噛み締めて、〝式鬼・野鉄炮〟をにらみつけた。
「俺様は俺様だ。生き方に悔いなんざありゃしない。過去の傷はまとめて明日への力に変えてやる。仲間達の不安はこの両手で取っ払う。それが、俺様の目指す覇道ってやつだ」
「それでこそ、このあたち、妖刀ムラサマの使い手でちっ!」
満勒はノーハンドルでバイクに仁王立ちして、本来の姿である鉄塊じみた妖刀に戻ったムラサマを担ぎあげる。
「舞台登場 役名宣言――〝覇者〟!」