第423話 影武者セグンダの未来予測
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「二人とも、冒険者育成学校の臨時講師だった時の面影ゼロっ。確かに近づけない」
「こ、こえええよっ。夜中にトイレへいけないよ」
「か、肩を並べることと、性癖を受け入れることは別物でち」
「久蔵じいさんと、炉谷さんはお楽しみのようだから、しばらくそっとしておこう」
出雲桃太の親友、呉陸喜こと黒騎士に、鉛色髪の巨漢青年、石貫満勒、日本人形めいた少女ムラサマは、パソコンからホワイトボードに出力された映像を見て性癖を爆発させる、六辻久蔵と炉谷道子の奇行に怯えて視線を逸らした。
日常からシームレスに非日常へうつる、まさかまさかのホラー展開だ。彼ら三人が衝撃を受けたのも致し方ないだろう。
「ファファファ。しかし、六辻詠が顔出しで七罪やテロリスト団体〝K・A・N〟と戦っている映像は、炉谷さんほどではなくとも、残されたクーデター軍の主力、〝SAINTS〟団員に影響がありそうだ」
セグンダは、怪しい呻きをあげる道子と久蔵の隣で動画を見続けて、意外な感想を告げた。
「え、マジかよ? あのニワトリ子は、何をやらかすかわからない地雷娘だから、師匠のような影武者をたてて、屋敷に閉じ込められていたんじゃないのか?」
満勒が目撃した詠は、異界迷宮カクリヨを渡る過酷な旅で成長する前ということもあり、どうにも頼りなさそうだった。
あるいは、彼が一方的に想いを寄せる、白衣を着た美少女、祖平遠亜がメガネを外した時の印象が強すぎて、記憶があいまいだった。
「ファファ。実は彼女、裏で糸を引く黒幕、六辻剛浚が影武者を立てざるを得ないくらいには、家中で人気があるんだよ。そして、冒険者パーティ〝W・A〟で経験を積んだおかげか、あのお嬢様は私にも一撃を入れるくらい強くなった。それが同じクーデター軍の〝K・A・N〟と戦っていたことが公表されたんだ。〝SAINTS〟は荒れるぞ」
満勒にとって師匠の発言は、一見デタラメな予言のごとく突飛なものではあったが――。
「そうか、あのニワトリ子。六辻詠は、師匠とも一瞬だけだが、互角にやり合ったって話だったな。冒険者パーティ〝W・A〟、まったく退屈しない相手だぜ」
「だからこそ、勝ちたいんだろう? 私はこれから、カムロの〝K・A・N〟捕縛作戦に巻き込まれないよう、クマ国に隠れている〝前進同盟〟の退却支援に行かなきゃならない。だけど、満勒。アンタが動くべきタイミングは近いうちに必ずくる。チャンスと見たら、迷わず動くんだよ」
セグンダは、元勇者パーティ〝S・O〟の代表、二河瑠衣の肉体から作られたために彼女の記憶を引き継ぎ、アルバイトながらも一度は六辻家総大将の影武者をつとめた過去がある。
その経験に裏打ちされただけあって、誰もが耳を疑うはずの未来予測は、見事に的中した。
『コケーッ。光学迷彩!』
「「この動画に写っているのは、間違いなく詠様だっ!!」」
六辻詠が、家門の象徴とも言える〝鬼神具、空王鬼ジズの羽根〟を使い、同盟相手である〝K・A・N〟と戦う動画を地上で見て、あるいは迷宮内に伝わったことで――。
本来ならば彼女の部下である元勇者パーティ、〝SAINTS〟の団員達は衝撃を受け、クーデター軍を率いる総大将、六辻剛浚への疑念が爆発したのだ。
あとがき
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