第421話 決戦鑑賞
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の親友である呉陸喜こと黒騎士や、鉛色髪のマッチョ青年、石貫満勒。彼の〝鬼神具〟である日本人形に化けた少女ムラサマも、ダンジョン内でも機械動作を可能とする特殊な結界の中で、パソコンからホワイトボードに投影された映像を見て、ああだこうだと盛り上がっていた。
「ファファファ。冒険者パーティ〝W・A〟と、元勇者パーティ〝K・A・N〟 の決戦かな? 面白い動画を見ているね」
そこに、冒険者パーティ〝G・C・H・O〟の師匠的立場にある翡翠色のビキニアーマーを着た美女、セグンダがふらりとやってきた。
「オウモが掴んだ情報曰く、最初に戦った相手は異世界クマ国のヤタガラス隊らしいが、政治上の理由かバッサリ切られているね。それに、桃太君が吸血竜ドラゴンヴァンプの首をはねてから、赤黒い霧になって消えるまで、なーんか時間が飛んでそうだ。隠さなきゃいけことでもあったかねえ」
セグンダがつやつやした健康的な脚をパイプ机の上に投げ出しつつ、違和感を指摘するや……。
「え、マジで? どこよ?」
「ふむ。仮に編集が入ったとしても、それほど時間が経っているとは思えない。だが、セグンダさんに指摘されてみれば、なるほど不自然な箇所があるな」
「あの黄金色に輝く短剣、昔どこかで見た気がするでち。見せたくないものがあるから隠したでち?」
満勒も黒騎士もムラサマも、示し合わせたかのように背を伸ばして互いの顔を見合わせた。
「えーと、ムラサマ、黒騎士。出雲桃太が見せたくないものがあるとしたら、なんだと思うよ?」
「トータらしくない。いや、秘匿をロマンを考えれば、逆にトータらしいのか。それはもちろん、新たな必殺技だろう」
「かくしておきたいとっておきの新武装という線もあるでち」
動画から新必殺技の〝生弓矢・草薙〟を隠したのは、桃太ではなく、彼が使った短剣に潜む八岐大蛇の首のひとつ、隠遁竜ファフニールだったのだが……。
三人はツノ付き合わせて相談したところ、当たらずとも遠からずの真相に辿りついていた。
「ライバルが強くなったなら、むしろ楽しみじゃないか。ムラサマ、修行を手伝ってくれ。俺様も新必殺技のアイデアがあるんだ」
「いいこと言うでち。スサノオの偽物が伝えた技、〝生太刀・草薙〟なんて、けちょんけちょんにやぶってやるでち」
「私はトータを遠距離攻撃で封じるつもりだったが、負けてはいられないな。なにか新技を考えてみようか」
「ファファファ。三人とも、前向きで結構!」
セグンダは、そんな弟子達の闘志溢れる姿勢に、白皙の頬をほころばせた。
「そういや師匠、必殺技や新武装といえば、あの五馬乂って男が、師匠の決め技、〝飛燕返し〟を使っていたが、どう思うよ?」
「うーん。短剣の刀身を鬼術で伸ばし、リンちゃんの力を借りて、完成度は三割未満ってところか」
その一方で、満勒があげた乂の新必殺に対しては、非常に厳しい評価をくだした。
「三割? 本家本元の使い手だけあって、お昼に食べた麻婆豆腐みたいに辛口でちね。映像を見るに半分くらいは真似できているでち」
刀の化身であるムラサマはもう少し甘く見積もっていたようだが――。
「私の物真似としちゃあ、たいしたものだけどね。筋肉も反応も鍛えなければついてこないんだから、反復練習が足りていない。それに見たところ、五馬乂の弱点は、あの赤茶けた、黄金色に輝く短剣――〝鬼神具〟とのコミュニケーション不足だね」
あとがき
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