第419話 一葉家と〝J・Y・O〟の彷徨
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「「〝K・A・N〟、見つけたぞ」」
仲間とはぐれてしまった元勇者パーティ〝J・Y・O〟代表の一葉朱蘭と、彼女の腹心である離岸亜大は、幸保商二の部下である冒険者パーティ〝W・A〟別働隊に追い詰められたのだが――。
「なんだ、あの二人。友軍が追われているのか? 傲慢の剣よ、切り裂け!」
いまやお尋ね者となった二人は、どこからともなく飛来した無数の〝影の武器〟に救われた。
「あれは、七罪家に伝わる〝勇者の秘奥・影の使役術〟じゃないか。今日の運勢、最悪かと思いきや最高だったかねえ?」
「いやったああ。僕の日頃の行いが良いからだね」
朱蘭と亜大が胸を撫で下ろす間にも、スーツ姿の老紳士は影の槍を手に猛然と突撃し、冒険者達を薙ぎ払った。
「舞台登場 役名宣言――〝鬼執事〟! 我が身は主人と同胞のためにっ」
「「バトラーの役名だって!? あいつは〝K・A・N〟最強と名高い、晴峰道楽かっ。幸保隊長を呼んでこなければっ。」」
追っ手の〝W・A〟団員達も善戦したものの、晴峰には歯が立たず、蹴散らされてしまう。
「セーフハウスを守っていたら、尋ねてきたのが、悪名高い離岸亜大とはな。いまや失われたといえ、勇者パーティ〝J・Y・O〟を率いた一葉朱蘭ともあろうものが、直属の部下くらいまともな人間を選んでくれ」
「キハハハっ。たしかに亜大は奥方を財布としか考えないような外道のクソ煮込みだが、能力だけは優秀だからね。今回の戦いも相手が悪い。幸保商二は、あの〝C・H・O〟の剣鬼、鷹舟俊忠が最終防衛線を任せた男だよ。先の戦いだって、四鳴啓介が操る〝神鳴鬼ケラウノス〟を相手に寡兵で渡り合った名将だ。烏合の衆となった今のクーデター軍じゃ、どうにもならないさ」
三人は岩山中腹に築かれた隠れ家で、なんとか幸保隊の追跡をやり過ごしたが、七罪家と〝K・A・N〟の凋落は明らかだった。
「なあ、晴峰。クマ国に入り込んだ連中と連絡が取れなくなったそうだけど、なにか知らないかい?」
「業夢様が式鬼に託された最後の手紙には、武運つたなく出雲桃太に敗れ、クマ国に確保されたという報告と、執事を解雇するという通告が書かれていたよ。〝わしは好きにした。お前も好きにしろ〟だそうだ」
老いたる執事、晴峰道楽は天を仰いだ。
「私は幼き日に業夢様に拾われた時から、いつか道具として使い潰されると覚悟していた。この年で自由を与えられても何をすればいいのかわからん」
「キハハっ。業夢は悪党だが、あれはあれで味のある男だったからねえ。晴峰、行く宛がないんだったら一緒に来るかい? 前に商売した繋がりで〝前進同盟〟に連絡をとる。ちょっとした仕込みを六辻家と〝SAINTS〟に仕掛けていてね。上手くことが進めば売り出し中の冒険者パーティ〝G・C・H・O〟に匿ってもらえるかもしれない」
「わかった。新たな主君を見つけるまでの間、貴女達に同行しよう」
かくして一葉朱蘭、離岸亜大、晴峰道楽の三人は、形成不利と見て闇にもぐる。
七罪家を再興するに足る実力者達が、揃って姿を消したことは、日本政府と歩調を合わせてクーデター軍鎮圧の指揮をとる冒険者組合代表、獅子央孝恵にとって嬉しい誤算だった。
あとがき
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