第40話 堕ちた勇者パーティ
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桃太と林魚はダンスを動画サイトで共有し、一気に呪いを解こうとしたものの、〝鬼の力〟が精密機械の動作を阻む異界迷宮カクリヨでは叶わなかった。
「わたしと桃太君が追放された後の二週間あまりで、〝鬼の力〟の汚染が一気に進んだのね。外部と遮断された環境は、洗脳にも適しているから……。林魚君達は、どのような生活を送っていたの?」
遥花は急速に〝鬼の力〟の悪影響が強まったことを懸念し、その理由を調べようとした。
彼女が冒険者育成学校の教師だったこともあり、林魚ら、正気に戻った研修生達は素直に答え始めた。
「黒山指揮官の命令で、〝鬼の力〟を強くする為だって、モンスターの血と肉を生のまま食べました」
「拒む子もいたけど、毎日の活動を総括するって言って、自分と仲間のミスを報告させられるんです」
「一番革命的じゃないと名指しされた者は、男女問わずメンバー全員の前で裸にされて、集団で殴られたり辱められたりするから逆らえなかったの」
桃太は元勇者パーティ〝C・H・O〟の非人道的なやり口に、血が燃えたぎった。
「おかしいだろうっ。何が勇者パーティだよ。まるでテロリストじゃないか」
「桃太おにーさん。まるでじゃなくて、日本政府から本物のテロリスト認定されているサメ」
紗雨は桃太の手を取っていさめるものの、サメの着ぐるみから出た彼女の顔も熱したヤカンのように真っ赤だ。
「凛音の阿呆め。……いいや、下手すると八大勇者パーティ全てが汚染されているのか? 五馬家のことが心配になってきたぜ」
乂は怒りよりも心配が勝るのか、黄金の髪を掴んでうめきをあげた。
どうやら別働隊を率いる幹部の黒山犬斗は〝鬼の力〟という呪いと、異界迷宮という閉鎖空間を利用した洗脳で、研修生たちを即席の少年兵に仕立て上げたらしい。
「育成学校の授業を悪用されるなんて思いもしなかった。こんな形で〝鉄のカーテン〟を作りあげるなんて」
遥花は赤いリボンを結んだ栗色髪の頭を抱えた。そうして、捕虜となったメンバーの歪さに気がついた。
「林魚君。このチームに〝斥候〟はいないの?」
先の交戦も、〝斥候〟が偵察し連携を補佐していれば、戦況は全く違ったものになっただろう。
「あんな非力な職業は不要だから、発掘兵器〝千曳の岩〟に生贄として捧げるって、黒山リーダーが処刑したんです」
「むかーっ。桃太おにーさんと同じ〝斥候〟をなんだと思っているサメ!?」
「シャシャシャ。サメ子、冷静になれよ。黒山ナンチャラにとって、それだけ〝斥候〟が目障りだってことだろう。なあ相棒」
桃太は乂に水を向けられて、ハッと閃いた。
「そうか。通信や連絡も斥候の役目だものね。ひょっとしたら黒山は、三縞代表や鷹舟副代表の意図とは違う行動を取っているんじゃないか?」
「待てよ、出雲。俺たちは矢上先生とお前を討伐するよう命じられたんだ。だから黒山リーダーの指示通りに里を焼いて、……おかしいぞ?」
曲がりなりにも部隊長だった林魚旋斧は、命令の異常に勘づいたようだ。
「遠亜っち。〝C・H・O〟の目的は、クーデターで日本政府を倒すことだよね? 異界迷宮の奥にある里となんて、喧嘩してる場合じゃないよ!」
「そうだよ、心紺ちゃん。三縞代表は例の国には関わるなって、言っていた。だとしたら、黒山達は三縞代表や鷹舟副代表の意図に沿わない方向に、パーティを誘導していることになる」
更に、追放者となった柳心紺と祖平遠亜が状況を整理する。
「三縞代表は天下をひっくり返すって言ってたけど、具体的にはどうするつもりなんだろう?」
「隊を分ける前に鷹舟副代表が言っていたわ。自分たちの目的は、冒険者組合を牛耳る魔女、獅子央賈南様の首だって」
あとがき
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