第413話 クマ国の入国資格
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「僕は代表とは名ばかりのお飾りだからね」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨の皮肉に対し、牛に似た仮面をかぶる足の見えない幽霊、カムロは肩をすくめて養娘の皮肉をあっさりと受け流した。
「とはいえ、地球のお客人も迷宮では落ち着いて休めないだろう。さっきも言ったように、残る〝K・A・N〟のテロリスト達はクマ国が捕縛する。桃太君達と葉桜隊は、ひとまずクマの里へ送ろう。僕がワープゲートを開くからついてきてくれ」
カムロはそう言って焔学園二年一組と、葉桜千隼ら鴉天狗の小隊を手招きした。
「そこの怪しい行動をとっている犯罪者どもも、ついてくるんだ」
彼は次に、キャンプ地の隅で、〝K・A・N〟の同胞に向けて「降伏するか逃げろ」と連絡用の式鬼を送っていた、七罪業夢とその部下達に声をかける。
「まったく油断も隙もない。本当なら一発ぶん殴りたいところだが、捕虜を虐待する趣味はない。桃太君ら冒険者パーティ〝W・A〟が捕まえた犯罪者達も、特例で入国を認める。ただしクマ国で罪科を重ね、地球の日本政府からも逮捕状が出ている以上、拘束と監視はさせてもらうぞ」
「へーい。だが、親分は見てのとおり手足を失った重傷だ」
「正当な裁判にかけられるまでは、我々は命に替えても業夢様を御守りします」
カムロは、残党のまとめ役である索井や郅屋の申し出に対し、特に異議を挟むことなく、首を縦に振った。
「忠義ご苦労、怪我人については配慮する。日本政府との交渉が終わるまで、ゆっくり傷を癒やすといい」
更に、昆布のように艶のない黒髪を地面に垂らし、何やらゴソゴソと細工を続ける少女を見て、冷え冷えとした視線で言い切った。
「最後にテントの影にいる、頭隠して尻隠さずのヤンチャ娘。お前も今回だけは入国を許そう」
「え、なにっ。妾は隠れようなんてしてないんですけどーっ。年食って目が悪くなったんじゃなーい?」
カムロはおよそ半世紀前に、異世界クマ国へ侵略してきた八岐大蛇と鬼の軍勢を撃退した過去がある。
ゆえに焔学園二年一組に在籍こそしているものの、正体は大蛇のエージェントである少女、伊吹賈南にみせた配慮は破格のものだっただろう。
「……まったく。先代の頃から変わらんなあ」
「アハハ。ため息とは情けない。かつての英雄も、よる年並みには勝てんということか。幽霊のくせにだらしがないのお」
カムロがクマ国の軍勢と遭遇したことで、慌てて仲間達へ通信を送ったのは、七罪業夢と〝K・A・N〟だけではない。
賈南もまた元旦那であり、日本国の冒険者組合代表である獅子央孝恵に、通信のための式鬼を送ろうとしていた。
が、それを隠そうとするあまり、国家元首を煽るという最悪の反応を返してしまったのだ。
「「カムロ様に対して何たる無礼かっ。許せん!!」」
護衛として付き従っていたクマ国の戦士達は、主君に喧嘩を売った賈南へ殺到した。
 





