第405話 桃太、仲間達の元へ
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「おねえさん。俺、カムロさんの何をお願いされてるんですか?」
「それは……」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、白金色の髪を一つ束に結わえ、左目が赤く右目が青のオッドアイを持つ、巫女服を着た美女――自称、おばちゃん幽霊に問いかけると、彼女は何かを言いかけたが――。
彼女からプロレス技を受けて、地面に寝そべっていたはずの金髪青年ファフニールが突如として立ち上がるや、巫女服に包まれた柔らかな胸の中から桃太を引っ張りだした。
「ファ、ファフ兄さん、何をするんですか?」
「ダメだよ、桃太君。幽霊の誘導なんかにひっかかっちゃ……。キミにはやることがあるんだから、趣味人を部屋から出そうとしたり、クマ国のガンコ幽霊達とわちゃわちゃしたりする暇はないはずだ」
「あ、誘導はひどくない? 桃太君にも関わることなんだから、放置はよくないわよ」
ファフ兄は、相変わらずのアニメ絵がプリントされたシャツを着た背中で、おばちゃん幽霊を隠しながら、桃太に向けて手を振る。
「知らないね。そもそも大人が決着をつけるべき因縁を、未来ある子供に背負わせるんじゃない。桃太君も早く結界から出るんだ。今は仲間との再会を喜ぶ時間だろ?」
「……ホント、両方の父親譲りで口が上手いんだから」
おばちゃん幽霊は呆れたように肩をすくめると、白い着物の生地に包まれた深い胸の谷間から、飾り気の無い一升瓶を二本、あたかも手品のように取り出した。
「これは、お土産の御神酒よ。ファフニールもウワバミだから、お酒好きでしょ? 一本は戦いの治療に使って、もう一本は万が一の時の為にとっておきなさい」
ファフ兄は酒瓶を受け取ったものの、じっとりとした目で贈り主を見つめた。
「わかったよ、〝太古の荒御魂〟。万が一の時は役立てるとも。だけど怪我をしたのは、吸血竜ドラゴンヴァンプとの戦いよりも、オバアサマの暴力コントにつきあったからなんだよなあ」
「桃太君、ちょっと待っていてね。今からそこのニートをぶちのめして、手作りヘビ酒を作るから」
「怖いわっ。お淑やか設定はどこへ消えた?」
桃太は、目の前で相変わらずのドツキ漫才に興じる二人に笑顔で手を振った。
「ファフ兄さん、おねえさん。また会いましょう!」
西暦二〇X二年八月一二日夜。
桃太は、笑顔の二人に結界内部から現実世界へ送り出され――。
「桃太おにーさん、ありがとサメー!」
「相棒、助かったぜ」
「桃太くん、無事で良かったっ」
星空の下で、ドラゴンヴァンプから解放されて、歓声をあげる仲間達の元へと帰還した。
桃太は、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨、破れてボロボロになったスーツを着た担任教師の矢上遥花に前後から抱きしめられて、もみくちゃにされた。
「コピーとはいえ二〇〇体ものドラゴンを退治するとは、まさしく快挙です」
黒翼の生えた前髪の長い中性的な少女。葉桜千隼ら鴉天狗達も、安全のために照明となる焚き火を炊きながら、目をキラキラさせて歓声を上げる。
「いよ、さすがは冒険者パーティ〝W・A〟の代表!」
「コケーっ、こたびの執事の活躍。鼻が高いですわ」
「ありがとう、地球のお友達」
「貴方こそ英雄だ!」
桃太が救い出した二〇〇人。その誰もが手を叩いて、興奮していた。
「お前がいなけりゃ、オレはもう駄目になっていた」
「ニャニャーっ(助かったわ)」
桃太は、身を寄せ合う金髪の長身少年、五馬乂と三毛猫に化けた少女、三縞凛音の無事を確認し、瞳から涙をこぼした。
「ううん、俺だけじゃない。皆が力を貸してくれたから、ドラゴンヴァンプを倒せたんだ」
あとがき
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