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第403話 異界の女神

403


「カミムスビ……普段はアテにならない〝クマ国の女神様〟が動くほどに、敵の手腕が悪辣あくらつだったんだ。おかげでようやく居場所を把握できた。宿に逗留中とうりゅうちゅうの冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の別働隊。あの二人にも声をかけてくれ。僕の力で直接、ヨシノの里から〝次元の裂け目(ワープゲート)〟を開く。桃太君に会いに行こう」


 そうして、カムロが異界迷宮カクリヨを目指してヨシノの里をたった頃――。


「桃太君、よく頑張ったね」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたの眼前に、地球から発し、異世界クマ国を通って、異界迷宮カクリヨという三つ目の世界に降り立った光の中から、白金色の髪を一つ束に結び、瞳の色が赤青と左右で違うオッドアイを持つ女性が現れた。


「あ、あなたは……」


 桃太は、彼女が着た純白の着物を押し上げる豊かな胸と、緋袴に包まれたまろやかな臀部でんぶ稜線りょうせんを見て即座に思い出した。

 忘れるはずもない。

 桃太が、建速たけはや紗雨さあめと共に冒険者育成学校、焔学園ほむらがくえんに転入した日。

 二年一組のクラス中に喧嘩を売った八岐大蛇のエージェント、伊吹いぶき賈南かなんが展開した時空結界の中で出会った――正体不明の幽霊だ。


「貴女は、紗雨ちゃんに取り憑いていた幽霊のお姉さん!」


 桃太は巫女服を着た女性に背中から抱きしめられて、おそらくは下着もつけていない彼女の柔らかな感触に触れて、かっと血が昂ぶりドギマギする。


(まるで日向ひなたのような暖かさには覚えがある。そうか、さっき背中を押してくれたのはこの人だったのか)


 桃太は、林檎のように赤くなった顔とドクドクと打つ心臓を抑えようと、浅く息を繰り返しながら尋ねた。


「おねえさんも、力を貸してくれたんですか?」

「えへへ、そうなんです。お姉さんだなんて嬉しいけれど、呼び方は――おばちゃん幽霊でいいよ。今回は特別だから、直接姿を見せられたんだ」


 桃太は、自称おばちゃん幽霊に耳元でささやかれて赤面する。

 そんな二人を、彼が握る〝鬼神具きしんぐ〟錆びて赤茶けた短剣の中から実体化した金髪青年、隠遁竜いんとんりゅうファフニールことファフ兄が呆れたようにうそぶいた。


「タハハ……。色気を振りまくのもいいけど、年齢を考えようよ。一〇〇〇歳はもうおばちゃんじゃなくて、お婆さんだ」


 ファフ兄は相変わらずの時代がかったオタクみたいな格好で胸をはり、ぺらぺらとおばちゃん幽霊を煽っていたが、彼の背景の景色は薄い雲がかかったように灰色に染まっている。

 どうやら桃太がいるのは現実世界ではなく、時間の停止した時空結界の内部らしい。


「むんっ!」


 あまりに失礼な言動に堪忍袋の緒が切れたのか、おばちゃん幽霊は緋袴ひばかまに包まれた足を伸ばして、問答無用とばかりに彼を蹴り飛ばした。


「ひでぶっ」


 キックの威力たるや、プリントシャツを着た金髪青年の体がくの字におれまがり、一〇メートル近く高々と浮かびあがるほどだ。


「このワルガキ、ヘビ鍋にしちゃうよ。貴方の片親といい、ホント性格悪いんだから」

「ま、まて、ヒステリーはよくない。八岐大蛇やまたのおろちの首だから、いずれ討たれる覚悟はしているけれど、さすがに鍋の出汁にされる最期は勘弁だ。御年一〇〇〇歳の若作りには敬意を払うべきだったね。う、う、うぎゃああ」


 地面に落下したファフ兄は、衝撃で解けたボサボサの金髪ごと頭を踏みつけにされながら、おばちゃん幽霊になおも悪態をついていた。

 

「思い出した。たしか、おねえさんの役名は〝太古の荒御魂アラミタマ〟ですよね? なるほど迫力あるなあ」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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[一言] >桃太は、自称おばちゃん幽霊に耳元でささやかれて赤面する 刀使いの傭兵「ちょっとそこのお兄さん、こっちでお話ししようでゲス」 >ヘビ鍋 獺鍋「こっちにおいでよ」
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