第401話 空をわたる光
401
「さ、サメエエ!?」
「リアリー!?」
「えええっ!?」
「た、助かったの!?」
西暦二〇X二年八月一二日の日没時。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、自らに宿る〝巫の力〟と、謎の光の後押しを受けて放った〝生弓矢・草薙〟の矢は、約二〇〇体に増殖した八岐大蛇・第七の首ドラゴンヴァンプの急所を撃ち抜き、余波でゲル状の肉体を蒸発させ、核となった鬼の仮面に囚われていた仲間達を全員、救い出した。
「やった。ファフ兄さん、やってやりました」
『お見事だ、桃太君っ。七罪業夢を取り込んだ最初の個体の撃破も確認した。それでこそボクの推しだっ!』
桃太の青く輝いていた瞳が、元の黒色に戻る。
竜殺しを成し遂げた少年は、右手で握った短剣に宿る意志、隠遁竜ファフニールと共に勝ち鬨をあげる。
『あ、あ、あ、有り得ないいいいっ。吸血竜ドラゴンヴァンプよ、それでも数多の世界を喰らった八岐大蛇の首のひとつか? 二〇〇体に増えたんだから、いくらだって再生できるだろおおっ』
その一方、事件の裏で糸を引いていた黒幕――。
八岐大蛇のエージェントにして、八大勇者パーティのひとつ〝TOKAI〟代表の八闇越斗は、迷宮の隅で膝をつき、悔しさのあまり顔を老若男女コロコロと変えながら、荒れ果てた大地を殴りつけた。
『獅子央賈南が組合を去ってから、一年の時間をかけた策だったんだぞ。邪魔者を全て消して、地球とクマ国の間に異世界大戦を引き起こす開幕のベルになるはずだったんだ。こんな結末、受け入れられないっ。仲間との繋がりで強くなる〝縁の力〟だと、ふざけやがって。最後に出雲桃太の力を底上げしたあの光は、いったいなんだったんだ!?』
越斗の疑問はもっともだろう。
決着の瞬間より、さかのぼることわずか数分前――。
「うおっ、まぶしっ」
地球日本の東京都二四区〝楽陽区〟では、太陽を連想させるほどに明るい、天地を貫く光の柱が観測された。
「な、なにが起きたんだな?」
「獅子央代表。どうやら街の中心部外れにある集合住宅〝ひので荘〟で、詳細不明の発光現象が確認されたようです。元勇者パーティ〝SAINTS〟や、〝K・A・N〟がテロを起こした可能性があります。警察とともに調査しますので、代表は組合本部でお待ちください」
「お願いするんだな」
冒険者組合代表である獅子央孝恵は、本部の執務室で、勇者パーティ〝N・A・G・A〟から派遣された職員へ携帯端末で指示を送りつつ、窓から見えた光の柱に想いを馳せた。
「ひので荘か。パパ……、獅子央焔が青春の思い出だからといって、あの古アパートの解体を拒んだんだな」
孝恵は、英雄だった父の奇行に首を傾げる。
思い出として偲ぶだけならば、博物館なり記念館なり、別の利用法はあったはずだ。
わざわざ滅多に使われない学生寮として、改修もなしに〝ありのままの姿〟で残した事には、何かしらの理由があったのではないか?
「ひょっとして万が一の事態に備えて、地下に強力な〝鬼神具〟でも、隠しているんだな?」
そして桃太が運命を切りひらいた、決着の直前――。
異世界クマ国、ヨシノの里では、紫色に染まる空を、巨大彗星のごとく天を裂く一条の閃光が通り過ぎた。
「地球から異界迷宮カクリヨへ伸びる光……。そうか。獅子央焔すらも袖にした〝あの鏡〟が、桃太君を認めたか」
あとがき
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