第399話 ちからの使い方
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「遥花先生、賈南さん、わかりました。俺が参考にするべき技は、鷹舟俊忠の鬼剣・〝七夜太刀〟だった。技そのものは使えなくとも、〝螺子回転刃〟を使えば似た効果を模倣できるはずだ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、担任教師である矢上遥花と、クラスメイトであり、八岐大蛇のエージェントでもある少女、伊吹賈南に向けて親指を立てた。
「と、桃太くん、何を言っているの?」
「止めてやるな、遥花。やってみせい、出雲桃太。死んだら骨くらいは拾ってやる」
桃太は二人に笑顔を残して、颯爽と走り出した。
「遥花先生、行ってきます。賈南さん、勝ってくるよ」
桃太は自身に宿る〝巫の力〟を強く意識する。
黒い瞳を青く輝かせながら、腕を振り足を高くあげて、踊るように二〇〇体のドラゴンの前へと飛び出した。
「俺に宿る力が、〝皆との縁〟だというのなら、怯える必要なんてどこにもない。さあこい。俺は、逃げも隠れもしないっ」
桃太は正々堂々名乗りをあげて、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟の一角を占める二〇〇体の吸血竜ドラゴンヴァンプの群れと向きあった。
(遥花先生からリボンを預かるのは二回目だ。勇者パーティ〝C・H・O〟を追放された時は、逃げるのが精一杯だった。でも、今は違う!)
恩師の遥花から預かった〝鬼神具・夜叉の羽衣〟を手に巻きつけ、かつてオウモから譲り受けた手袋、〝日緋色孔雀〟を再現する。
「紗雨ちゃん、乂、皆……。必ず助け出す!」
桃太はクマ国での修練に想い馳せる。
師たるカムロは奥義を授けてくれたのだ。繰り返した訓練を信じるだけだ。
「「「GAAAAA」」」
不思議なことに、ドラゴンヴァンプの吠え声のそこかしこに、大切な女の子、建速紗雨や、相棒たる五馬乂の声が混じっている気がした。
そして、血糊のごとく粘ついた破壊のブレスが桃太に向けて放たれる。
「それでいい。皆を助け出すために、みんなのブレスを利用させてもらうっ。我流・〝螺子回転刃〟二つだあっ」
桃太は二〇〇体ものドラゴンが放つ必殺の吐息の中へ敢えて突っ込み、〝夜叉の羽衣〟を変化させた手袋をかざし、ハンドミキサーのように回転する衝撃刃を自身の前後に生み出して、ブレスの一部を巻き取った。
『微力ながら、ボクも〝鬼の力〟への干渉を手伝おう。変化の魔術に長じたファフニールの〝役名〟を得たんだ。お守り代わりにはなってみせるよ』
桃太が帯びた短剣の中からファフ兄の声が聞こえて、黄金色の光が赤黒い破壊のエネルギーに作用し、二つのミキサー刃を変化させ、球形バリアのような反射結界を構築する。
「ファフ兄さん、ありがとうございます」
桃太には、鷹舟のように〝鬼の力〟を直接喰らう力はない。
しかし、伊吹賈南が泥に塗れながらもたらしてくれた希望と、矢上遥花が命を賭けて預けてくれた〝夜叉の羽衣〟が、死中に活を求めるアイデアをくれた。
「ドラゴンヴァンプになったのが、他の相手なら無理だった。でも、二〇〇体の依代になったのは、今日、共に戦った人たちだ。だから、理解できる!」
桃太は自身に宿る〝巫の力〟、すなわち〝縁の力〟で、ドラゴン一体一体が放つブレスから伝わってくるそれぞれの想いを、反射結界を通じて汲み取り、黄金色に輝く短剣で〝鬼の力〟を自らの力へ変えてゆく。
「暗い闇だと思った。でも、太陽はまだ沈んでいない。月がのぼり、星あかりが導いてくれる」
あとがき
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