第38話 シャル ウィ ダンス?
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桃太達は、因縁のあるイジメ主犯者の一人、林魚旋斧が率いた、元勇者パーティ〝C・H・O〟の研修生一〇人を打倒、無力化に成功した。
しかし、それで終わりといかないのが実戦の厄介さだ。
「ひとまず矢上先生のリボンで拘束したけれど、どうしよう? ずっと縛っておくわけにもいかないし」
「相棒、オレに良い考えがある。再起不能になるまでボコボコにしようぜ」
「乂、ストップ!」
「サメエエエエ!」
額に十文字傷を刻まれた少年、桃太が悩んでいると、金髪の不良少年、乂が恐ろしい提案を始めたので、サメの着ぐるみ娘、紗雨とともに即座に止めた。
「桃太もサメ子もお人好しだな、コイツらは人殺しの誘拐放火魔だぞ? かゆくなるイナバの果汁に漬け込んだって、文句を言われる筋合いはねえよ」
「乂の言うことはもっともだけど、戦闘力を失った相手を殴るのは、カッコ悪いだろ?」
「う、それは、相棒の言うとおりだ」
桃太は乂の暴走を止めようと、機転を利かせて踏ん張った。
「クソ劣等生め。黙って聞いていれば、おれたちが人殺しだって? 生きるに値しない反革命分子や劣等生を殺すことは正義だろう!」
「誘拐ってモンスターの子を捕まえたこと? モンスターの巣に火をかけたこと? それのいったい何が悪いのよ!」
しかしながら、林魚を筆頭に助けたはずの研修生一〇名から罵倒を浴びて、足から力が抜けた。
(カムロさんが、少年兵だけを止められないって言ったのは、こういうことか)
桃太が肩を落とし、乂が拳を固め、彼らに追放された心紺と遠亜も怒りをあらわにする中、元教師の遥花が必死でなだめようとするも、一〇体の鬼はヒートアップするばかりだった。
「林魚君達は落ち着いて。自分で何を言っているのか、わかっているの?」
「うるさい裏切り者め。おれ達は勇者パーティだぞ。殺すも殺さないもおれ達の自由だっ」
「そうよ。奪って何が悪いの、火をつけて何が悪いの? むしろ浄化されることを喜ぶべきなのよ!」
これは駄目だと、桃太も匙を投げようとした時、着ぐるみ娘がパンと手を叩いた。
「むふー、桃太おにーさん。紗雨に良いアイデアがあるサメ♪
地球の日本にも盆踊りってイベントがあるサメ?
踊りは古来からのコミュニケーションで、邪気を払う儀式サメ。
〝鬼の力〟は無くせなくても、きっと皆を落ち着かせることが出来るサメ」
「シャシャシャ。相棒、知っているか? こういうのを失敗フラグって言うんだぜ」
「サメエエエエ!」
「乂、紗雨ちゃん、ストオオップ。さあ踊ろう!」
桃太は、ヘビとサメに変身して喧嘩を始めた乂と紗雨を止めるためにも、カムロから学んだ〝勇者パーティに猛省を促す舞踏〟を勢いよく踊り始めた。
(紗雨ちゃんだけじゃなくて、カムロさんも言っていた。人類が積み上げてきた文化の力なら、鬼の呪いを祓えるって。なら、今この時、俺が踊らなくて誰が踊るんだ!)
額に十字傷を刻まれた少年の、風を切る拳に黄金のヘビが寄り添い、蹴り上げる足に沿ってサメが空を舞う。
異界カクリヨで踊るサメとヘビと人間が織りなす舞いに、その場の一同は目を離せなかった。直後――。
「「AAAAAA!!」」
林魚ら一〇人の研修生は、ダンスに合わせて知らずに知らずのうちに、手や足を叩いて拍子をとっていた。
そんな彼らの目、耳、鼻、口から、〝鬼の力〟の結晶である〝赤い霧〟と〝黒い雪〟が溢れて、黄金と白銀の光を発しながら、消え始めたではないか?
「い、出雲、すまなかった。おれは人として許されないことをしてしまった」
「ええーっ」
桃太は、自慢のリーゼントが潰れるのも構わず、林魚が地に頭をつけて謝罪するのを見て、心底驚いた。
あとがき
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