389話 カウンター!
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、全長五メートルの空飛ぶ爬虫類の怪物が呼吸をためた瞬間をチャンスとみて、異界迷宮カクリヨの第九階層、〝木の子の谷〟の岸壁を蹴り上げながら飛びかかり……。
相棒の五馬乂から借り受けた黄金色に輝く短剣で、吸血竜、ドラゴンヴァンプを護る影の武器を一閃し、快刀乱麻を断つとばかりに喉元を深々と切り裂いた。
「GAAAAAAA!?」
桃太の一撃は、ドラゴンブレスの為に集中させていたエネルギーを誘爆させて、竜の肩口から胸元に大きな裂傷を刻む。
しかし、ドラゴンヴァンプはいまだ健在。傷口をゲル化させて再生しつつ、血を放って応戦してきた。
『乂君が先ほど試みたように、首を落としただけでは殺せないかっ。桃太君、吸血攻撃が来るぞ!』
「その攻撃は、読んでいます。ドラゴンヴァンプ、あとで目に物見せてやると予告しただろう? 賈南さんや、柳さん、祖平さんから学んだやり方と、短剣の力を応用した、設置型の手裏剣だあっ」
そう、桃太は先ほど土煙に紛れた分身術で撹乱した際に、黄金色の衝撃波をこめた石つぶてを岸壁や大地に投げておいたのだ。
桃太が念じると、黄金色に輝く短剣の力で石つぶてが再発射され、泥や倒木を巻き込みながら、全長五メートルのカメレオンめいた空飛ぶドラゴンへを狙ってすっ飛んでいった。
「GAAAA!」
吸血竜ドラゴンヴァンプは、傷口から噴出させた赤黒い霧を操り、桃太を狙うものの、嵐のように手裏剣を横っ腹に浴びてはそれどころではない。
桃太が石つぶてにこめた衝撃波が全身余すことなく揺さぶって、ゲル化した竜の肉体にも甚大な損傷を与える。
「すごいね、出雲。鬼神具の短剣があるといえ、衝撃波だけで〝砂丘〟や〝影の使役術〟みたいに防御してるっ」
「出雲君の役に立てて嬉しいし、あの罠の使い方は参考になる」
「アイデア料金とか貰えんかのお!」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺が手を振って喜び、泥で汚れた白衣を着た少女、祖平遠亜が誇らしげに瓶底眼鏡に手をかけて光らせ、昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南がノートを破いて手書きの請求書を用意する。
彼女達だけにとどまらない。冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達、防諜部隊ヤタガラスの隊員、元勇者パーティ〝K・A・N〟の団員……。
誰もが桃太の活躍に魅入られていた。
「吸血竜ドラゴンヴァンプ、お前の成長速度は脅威だが、業夢さんと違って未完成だ。これ以上の怪物になってしまう前に、終わらせる」
「GAA!?」
桃太は出血攻撃が止んだ直後、地面と崖を蹴るようにして間合いを詰め、空飛ぶ吸血竜ドラゴンヴァンプを殴りつけ、地面へと叩き落とした。
「アメイジング!」
「ニャニャー!(すごい、やったわねっ)」
桃太の活躍をもっとも喜んでいたのは、さきほどまで命の危機に瀕していた金髪少年、五馬乂と、三毛猫に化けた少女、三縞凛音だろう。
二人は竜がぶちのめされるや、快哉を叫んだ。
「乂、リンさん。今のうちに紗雨ちゃん達がいる場所まで下がってくれ」
「わかった。けどよ、相棒。どうしたというんだ。オレより上手く短剣を扱っているぜ」
乂は本来の短剣の持ち主であることから、桃太の活躍を見て驚いたのか、足を止めて見入ってしまっていた。
「乂、桃太君と貴方の短剣を見て、ショックを受けるのはわかるわ。孝恵校長も奥さんについて言っていたもの。そう、これがネトラレというものねっ!」
「オーマイガッ、オレに短剣と寝る趣味はなーい。オーケー相棒。一旦退く」
あとがき
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