第387話 吸血竜ドラゴンヴァンプを打倒せよ
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「どうやらボクも、桃太君に身内と認識されたことで、〝縁の力〟のバックアップを受けられるようだ。七罪業夢ことドラゴンヴァンプとの戦いの間だけなら、短剣の中からアドバイスが出来るだろう」
「本当ですか、お世話になります!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、八岐大蛇・第五の首を自称する隠遁竜ファフニールこと、ファフ兄に感謝を告げた瞬間。
二人を世界の流れから隔離していた灰色の結界は砕け散り、止まっていた時間が再び動き出した。
「GAAAA!」
異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟。黄昏の空の下で、赤黒い血の翼が生えた全長五メートルの怪物、八岐大蛇・第七の首ドラゴンヴァンプが咆哮する。
桃太の相棒である金髪少年、五馬乂と、三毛猫に化けた少女、三縞凛音の命は、竜の殺意にさらされて風前の灯火だった。
「相棒、オレ達のことはいいから逃げろ」
「桃太君、これまでありがとう。乂と一緒だから、怖くないよ」
乂と凛音は愛しげに抱き合って、自らの首を刎ねようと迫る巨大な竜の前足、剣のごとき爪を前に、桃太へ今生の別れを告げたが――。
「乂とリンさんを見捨てるなんて冗談じゃない」
『桃太君、鬼の力の制御は任せてくれ。その短剣を思うように使うといいっ』
桃太は、乂の短剣に宿る意思ファフ兄の支援を受けて、両足に黄金色の光をまとわせて跳躍。
「わかりました。我流・長巻っ、特別版だ!」
桃太は、本来であれば腕に衝撃波を巻きつける技を、黄金の光を短剣の刃にかぶせるように応用し、鉄柱のごとき爬虫類の腕をずんばらりと切り落とした。
「GAAAAA!?」
日本国にクーデターを起こし、異世界クマ国を奪わんとしたテロリスト、七罪業夢が変じたドラゴンヴァンプも、片手を失う痛みには耐えられなかったか、喉にブレスのためのエネルギーを貯めつつ、谷の狭間で暴れ狂う。
「なんてパワー、大気が怯えている。大蛇の首め、どんな鬼術を使うんだ? 〝斥候〟の音響を使って、予測する!」
桃太が、短剣から黄金色の光を発し、空気の振動から殺意を読み取った直後――。
吸血竜はおかえしとばかりに、赤黒い翼をはためかせながら、〝影の使役術〟を用いて、谷の一角を埋め尽くすほどの影の剣や影の槍を作り上げ、撃ち放ってきた。
『大丈夫だ、桃太君。この精神状態ならまだまだ力を引き出せる。吸血竜ドラゴンヴァンプの成長速度は脅威だが、まだ生まれたばかりで戦闘経験は少ない。学習される前の技で、着実に削るんだ』
「わかりました。いよっし、やるぞおお。今度は、我流・手裏剣の特別バージョンだっ」
桃太は、竜に負けじと谷底に転がる石片を拾い、短剣が発する黄金の光を纏わせる。
「GAAAAAAAA!?」
そうして、機関銃も真っ青な速度で矢継ぎ早に投げつけると、輝く無数の石は影の嵐を流星の如く切り裂いて、ドラゴンヴァンプが〝影の使役術〟で作りあげた武器も装甲も粉砕し、血で衝撃を逸らす鱗をも打ち破った。
「サメエエエエ!? なんか凄いサメエエ」
「出雲なら助けられるって信じてた」
「コケーっ、我が最愛の執事だけありますわあ」
桃太の活躍を見て、冒険者パーティ〝W・A〟の仲間達が歓声をあげる。
「ああ、そうか。〝鬼神具〟も、信じれば応えてくれるのか。これなら〝斥候〟でもやれる!」
あとがき
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