第386話 縁の力とアオハル
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「桃太君が目覚めた〝巫の力〟は、自身と周囲の能力を引き出すことに特化した〝縁の力〟だ。昔話の連中よりも穏当だから、そうそう酷いことにはならないだろう。だってキミは誰かの悲しむ顔より、笑っている顔の方が好きだろう?」
「はい!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が元気よく応えると、勘違いオタクファッションに身を包んだ金髪青年ファフ兄はニコニコと微笑んだ。
「うんうん、そういうところが推したいんだよなあ。……とはいえ、良い機会だから忠告しておこう。さっき紹介した〝巫の力を持つ者〟の伝説だけれど、中には〝特別な才能のない者〟に倒されている者もけっこういる。自分は特別なのだ、なんて慢心は事故の元だ。くれぐれも過信はしないでくれ」
「しませんよ。俺より強い人なんていくらでもいる。乂や紗雨ちゃんがいてくれたから、ここまで戦ってこれたんだ」
「その初心を忘れなければ、きっとキミはどこまでも強くなれる。あとの心配は女性関係くらいかな?」
桃太は、ファフ兄が悪戯っぽく片目を瞑ると、ぎくりとして頭をかいた。
「そんなアオハル真っ最中の桃太君に、耳寄りな情報をプレゼントだ。カムロはわざと黙っていたし、乂君や紗雨ちゃんが言うはずもないけれど、クマ国は土地に対して人口が少ないからね。一夫多妻も一妻多夫も、法的には認められている」
桃太はファフ兄の発言を聞き、不謹慎ながらも、サメの着ぐるみを被った銀髪碧眼の愛らしい少女、建速紗雨を、そして他の親しい女性の横顔を瞼の裏に思い浮かべて、ドキンと胸が高鳴るのを自覚した。
「お、顔色が変わったな? 桃太君は思春期だから、色事に興味深々なのはわかるよ。でも、複雑に絡み合った男女関係は壊れやすい。地球がボクにあてはめた役名、ファフニールの伝承を調べてみるといい。竜殺しの英雄シグルズと、その恋人ブリュンヒルデとグズルーンは、男女の思慕、三角関係が遠因になって悲劇的な最期を迎えている。推しがそんな結末を迎えたら悲しいぞ」
「あはは、き、気をつけます」
桃太は冷や汗をかきながらこくこくと頷いて、ファフ兄の仮説を聞いてなお、まだ手付かずの謎に首を傾げた。
「それにしてもクマ国の力が、なぜ地球人の俺に宿ったんだろう?」
「その異常については、ボクもまだ調査中だ。推論だけでも……と、まだまだ話し足りないが、吸血竜ドラゴンヴァンプもボクと同格の八岐大蛇の首。結界で時間を止めるのも限界か」
時間の止まった灰色の世界にピシピシという音が鳴って、亀裂が入っている。
「少しでもアドバイスできればと姿を見せたんだが、桃太君は乂君と凛音ちゃんがピンチの今、落ち着いて対処できるかい?」
「ファフ兄さん、相談に乗ってくれてありがとうございました。大丈夫です。おかげで冷静に、仕切り直すことができそうです」
桃太は戦場に戻る時間だと自覚した。
七罪業夢が変じたドラゴンヴァンプから、五馬乂と三縞凛音を守るのだ。
「ファフ兄さん、また会えますか?」
「勿論だとも、ボクはいつでも短剣の中にいる……なんてね」
ファフ兄は別れ際、ちゃめっ気たっぷりに微笑んだ。
「どうやらボクも、桃太君に身内と認識されたことで、〝縁の力〟のバックアップを受けられるようだ。七罪業夢ことドラゴンヴァンプとの戦いの間だけなら、短剣の中からアドバイスが出来るだろう」
あとがき
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