第385話 巫の力の伝説
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「桃太君、今から話す事は、推測だぞ。ボクは〝巫の力〟とは、ボクたち八岐大蛇のような――外世界の侵略に対する、クマ国の自衛機能だと思っている。いくら〝鬼の力〟が危険だと言っても、攻撃してくる以上、全く触れないというわけにはいかない」
「はい。俺達は、異界迷宮カクリヨを探索するために、モンスターと戦う為に鬼の力が必要です。対処法もカムロさんに教わりましたし、日本でも研究が再開されたそうです」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、八岐大蛇、第五の首を自称する金髪青年、ファフ兄との問答に、かつて日本政府外交官の奥羽以遠とクマ国代表のカムロも似たような問答をやっていたなあと思い返した。
ファフ兄もまた、彼らのようにざっくばらんながら、両世界が抱えた事情を説明してくれる。
「そうだね。
カムロは、舞踏や音楽といった多彩な文化に触れることで〝鬼の力〟が持つ毒を洗い流し――。
オウモは、〝鬼の力〟が嫌う、地球の機械を組み合わせることで、悪性をある程度なら除去するフィルターをつけ――。
七罪業夢は、二河瑠衣や多くの冒険者の遺体を弄んで得た技術で、血を媒体に耐性を強化した――。
そういった八岐大蛇の侵略に対する防衛策を、クマ国も惑星レベルで生み出したんじゃないか、というのがボクの仮説だ」
ファフ兄はここまでよどみなく告げたものの、唐突にうんうんと唸り始めた。
「だが、しかし、うーん。これ言っちゃって良いのかなあ」
「どうしたんです。急に奥歯に物が挟まったようじゃないですか」
桃太の相槌に、ファフ兄は整った金色の眉をひそめる。
「桃太君。今から話すのは、クマ国に伝わる〝巫の力を持つ者〟が辿った伝説だ。
およそ〝全能に近い〟異能を得た指導者がいた。……しかしその力で虐げられた人々を救おうと、世界秩序をひっくり返した。
極めて〝死ににくい〟異能に目覚めた戦士がいた。……されど流されるがままに危険な勢力を転々として、世界に混乱を招いた。
凛音ちゃん以上に〝未来予測に長けた〟異能を持つ占術師がいた。……けれど野心のままにあまたの国々と人々を弄び、騒乱へと導いた。
これらの逸話は、必ずしも歴史の真実とは限らないが、〝巫の力〟も〝鬼の力〟と同様に、使い方次第で黒にも白にも変わることは肝に銘じて欲しい」
ファフ兄が明かした過去を知り、桃太は驚きのあまり飛び上がった。
師匠であるカムロから、善人以外も〝巫の力〟を使っていたと聞いていたものの、ここまでとは教えられていなかった。
「クマ国の自衛機能どころか、むしろ大騒動の種になってるじゃないですかっ。俺ってそんな危険な力があったんですか?」
「まあ、この手の教訓話で後世に残るのは、戒めとして〝やらかした人物〟だろうからね」
そんな桃太の姿を、赤いルビーのような瞳で桃太を映しながら、ファフ兄は輪ゴムでまとめたボサボサの金髪をかきあげて深呼吸する。
「桃太君が目覚めた〝巫の力〟は、自身と周囲の能力を引き出すことに特化した〝縁の力〟だ。昔話の連中よりも穏当だから、そうそう酷いことにはならないだろう。だってキミは誰かの悲しむ顔より、笑っている顔の方が好きだろう?」
「はい!」
桃太が元気よく応えると、ファフ兄はニコニコと微笑んだ。
あとがき
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