第37話 チームプレイ
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額に十文字傷を刻まれた少年、出雲桃太はかつて自分をイジメた犯人の一人、リーゼント頭の林魚旋斧と相対した。
「劣等生め、今も思い出すぞ、教科書や服を破いた時、涙目になっていたお前の顔がさあ!」
「自分のクズっぷりを自白して楽しいか?」
桃太は青く染まった枯葉を踏み砕きながら斧をかいくぐり、右拳で林魚の顔面を殴りつけた。骨に響く反動と共に、拳に熱く赤い血しぶきがかかった。
「ゲハっ。誰がクズだ。お、おれの方が強いんだっ、だから躾てやってるんだよお」
「林魚。喋れば喋るほど、お前の下劣さを広めるだけだぞ?」
林魚は鼻血を流しながら斧を振り回し、異世界の樹木をズタズタに破壊した。
〝鬼の力〟は以前にも増して強まっていたが、肝心の桃太に当たらないのだから、恐るるに足りない。
「よ、よくも恥をかかせてくれたな。もう学級委員長はいないんだ。ブザマに這いつくばって、奴の後を追いやがれっ」
「そうだ。リッキーはお前たちに殺された。だから仇を討つ。俺の戦う理由だ!」
桃太は因縁の相手に対し左右の拳を繰り出して、圧倒した。
同時に、必殺技を放った直後から、四肢に力が入らないことを自覚した。
(装甲貫通の〝生太刀・草薙〟は強力だけど、今の俺じゃ連発できない。ならば、衝撃で脆いところをピンポイントで突けばいい)
桃太は一度攻勢を緩めて、体勢を崩したように見せかけて林魚の攻撃を誘った。
「ひゃはは、もう限界かよ。ダセえ!」
案の定、頭に血が昇った林魚は力任せに斧を叩きつける。
噴出する〝鬼の力〟に巻き込まれた木が倒れ、土が崩れて山の斜面すらも切り砕かれる。
「どうだ劣等生。怖いだろう。〝鬼の力〟は無敵だあ!」
「ああ、〝鬼の力〟は恐ろしいとも」
されど、力任せの連続技が外れた猪武者の両腕を、桃太が掴むのは容易かった。
「だけど、お前は怖くない。我流、鎧通し!」
額に十字傷を刻まれた少年は、かつてのイジメ主犯者が身につけた鎧の隙間に、ありったけの衝撃を送り込んだ。
「う、嘘だ。劣等生に負けるなんて、ぎゃああっ」
桃太が掴む林魚の両腕から始まり、頭から足のつま先までぶるぶると振動し、リーゼント頭の少年は小便を漏らしながら失神する。
「林魚、無敵の力なんてあるものか」
桃太は、自戒するように呟いた。
(カムロさんが教えてくれた奥義は強力だけど、スタミナの消耗が激しい。もし〝生太刀・草薙〟が使えないときに強敵と当たったら厳しいな。もっと手札を増やさないと……。そんなことより、紗雨ちゃんや乂は無事か?)
桃太が慌てて周囲を見渡すと、黄金色のヘビと白銀色のサメが樹上から落下して人間体に変身、強襲するところだった。
「ここは安全地帯じゃなかったのか。ぎゃあああ」
「サメエ。油断大敵サメ」
「サプラーイズ? ここはとっくに死地なんだぜ!」
〝黒鬼術士〟は、〝鬼の力〟で火の弾丸や氷の矢を放つような遠距離戦を得意とする代わりに、白兵戦に劣る者が多い。
紗雨は着ぐるみから健康的な足を伸ばして蹴り、乂は長身を活かして拳を頭上から叩きつけて、鬼の仮面を被った術士四人をあっという間に制圧した。
そして回復役だったはずの〝白鬼術士〟二人は形勢不利と見るや、仲間を見捨てて逃げ出した。
「付き合っていられない、逃げろ。きゃあ」
「私達はあんな役立たずとは違うんだ。何を踏んで、かゆい、かゆいよお」
しかし逃亡者二人は、矢上遥花がリボンをマスケット銃代わりに使って撃ったイナバの実を踏みつけて、痒みをもたらす果汁を浴びてしまう。
卑怯者達が転げ回っていると、岩陰に潜んでいたサイドポニーの〝黒鬼術士〟柳心紺と、ショートボブの〝白鬼術士〟祖平遠亜が姿を見せて降伏を勧告した。
「矢上先生の言う通りだったわね」
「武器を捨てて、両手を上げて」
「ち、ちくしょう」
「なんでよおおっ」
桃太達は、かくして緒戦を制した。
二人の研修生を救出し、一〇人の鬼に憑かれた研修生を確保する大戦果だ。
しかし、次なる問題がすぐに生じた。
「捕虜がいきなり一〇人か。まだ里には二〇人以上いるのに、いったいどうすればいいんだ?」
あとがき
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