第383話 乂の短剣の出自と、ファフ兄の役割
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「〝鬼神具〟も、飛燕返しのような奥義と同じだよ。自身の器量も考えず、安易に力を引き出せば、飲まれて破滅する。キミの学友だった伏胤健造が〝鬼の力〟に魅入られてザエボスに変じた頃から、何度も実例を見ているだろう?」
「はい」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、勘違いオタクファッションに身を包む金髪青年ファフ兄が、思いもよらず真っ当な忠告をしたことに驚いた。
(もしかして、ファフ兄さんから、乂や凛音さんを助けるためのヒントが得られるんじゃないか?)
同時に、彼から情報を引き出そうと、積極的に話しかけ始めた。
「ファフ兄さんは、八岐大蛇の首だから、〝鬼神具〟についても詳しいんですか? 冒険者育成学校では、〝鬼の力〟を秘めた武具で、その力を使うことで〝斥候〟や〝戦士〟といった基本職から、〝賢者〟や〝忍者〟といった上級職に転職できると習いました」
「うーん。より強い〝鬼の力〟を使って、超人じみた力を発揮する。それを上級職と言うなら、大まかには正しいさ。でも、言い換えるなら、より強く〝鬼の力〟に汚染されるということだ。桃太君もソレがどれだけ危険な行為なのか、わかるだろう? なにせ半世紀以上前には、地球上にある国々の半分が失われたんだから」
桃太はここまで会話を重ねたことで、先ほど彼が激昂した発言の真意。
ファフ兄が短刀の中で何をやっていたか、その真相にようやく思い至った。
「そうか。これまで短剣が弱くなった時は、いつだって俺や乂が動揺していた。ファフ兄さんが、〝鬼の力〟を制限して、俺たちの暴走を防いでくれていたんですか?」
桃太の出した結論は、正鵠を得ていたのだろう。ファフ兄の張り詰めていた表情がほころんだ。
「ああ、そうだ。ボクは短剣の出力をコントロールしてキミと乂君を守っていた。桃太君は〝巫の力〟の影響か、〝鬼の力〟への耐性は強い方だし、戦いの後には踊ったり芸術に触れたりと、回復を怠らなかったから、これまで大丈夫だったんだ」
ファフ兄は桃太から視線を逸らさず、輪ゴムで結えた金色の長髪を神経質に弄りながら、浅く息を吐いた。
「でも、さすがに命懸けの三連戦は危うい。なにせボクが封じられている短剣は、キミが過去に戦った〝神鳴鬼ケラウノス〟すら比較にならないほどに危険だ。本来ならば、クマ国の代表であるカムロが門外不出と封じた最凶の〝鬼神具〟だぞ」
桃太は、かつて自分達が苦戦したケラウノスの名前を聞いて背筋が寒くなった。
「……乂からは、異世界クマ国の国宝だって聞いていました」
「そんな良いものじゃない。握っていて気づかなかったかな? こいつは宝刀どころか、元は凡百の数打ちだ」
桃太は、ファフ兄の指摘に納得した。
乂とともに〝忍者〟に変身して使う時、確かに手に馴染むものの、歴史ある名刀がもつ威風や、美術性、機能美のようなものは感じられなかったからだ。
「そんな廉価販売の短剣が、初代スサノオが竜やら鬼やらを切りまくった血を浴びた結果、〝八岐大蛇の首〟を宿すほどの依代へと変貌してしまったんだ。籠った念の深さも相当のものだよ」
桃太は背筋がヒヤリとした。彼の手の中にある短剣が恐ろしいもののように見えてくる。
「正直なところ、桃太君と乂君の二人がかりで分担しても危なっかしい。多分、この短剣を単独で扱えたのは、一〇〇〇年前の持ち主であった初代スサノオだけだ。カムロが国宝と定めたのは、門外不出の封印を施すための建前だよ」
「カムロさんは、危険なはずの短剣を、なぜ乂に渡したんだろう……」
あとがき
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