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第382話 桃太の暴走

382


「じゃあ、ファフにいさんは、これまでも俺達に力を授けてくれていたんですか?」

「いや、全然。むしろキミ達が短剣から〝鬼の力〟を引き出しすぎないよう、頑張って蛇口を絞ってた」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、相棒の金髪少年、五馬いつまがいより借り受けた短剣に宿る意志、〝八岐大蛇やまたのおろち・第五の首〟隠遁竜いんとんりゅうファフニールことファフ兄の言葉を聞いて――。


「乂の短剣は、〝鬼神具〟なのに、前から使っていて不安定だと思っていたんだ。強い時もあれば弱い時もあった」


 ――これまでの経験を踏まえて納得するも、〝不自然な程に〟カッと血が沸き立つのを自覚した。


「何がアドバイスだっ。ファフ兄さんはずっと、俺たちの戦いを邪魔していたんですか? だから、今さっきも乂が殺されそうになってっ」


 桃太の脳裏を、巨大なドラゴンと切り結んでいた乂の腕が折れる光景がよぎる。

 その直後、桃太の黒い瞳が〝鬼の力〟を意味する赤い色に染まり……。

 コタツのある六畳間から、今まさにドラゴンブレスを放とうとする吸血竜ドラゴンヴァンプと、死を目前にした乂が静止する谷へ、目の前の光景が変わった。

 どうやら桃太は、ファフ兄が作ったプライベートルームから追い出されてしまったらしい。


「ファフ兄さん。貴方を倒せば、邪魔をやめるのか? 乂を助けられるのか!?」


 桃太はこの時、竜に襲われた五馬いつまがい三縞みしま凛音りんねを失うという焦燥と、それを煽りたてる〝鬼神具〟たる短剣に振り回されるがまま、ファフ兄に向かって憎悪のこもった一歩を踏み出した。


「落ち着け、桃太君っ。キミ達の戦いを邪魔するつもりなら、わざわざ時間を停止する結界で止めるものか。〝鬼の力〟にあてられて、キミまで乂君と同じてつを踏むつもりか? 紗雨さあめちゃんが悲しむぞ。その短剣から力を引き出すのは、今すぐやめろ!」

 

 しかし、ファフ兄がどこまでも気遣うように、両肩に手を添えて訴えかけたことで、桃太は銀色の空飛ぶサメが踊る光景を思い起こした。


『サーメェッの神楽舞かぐらまいを見るサメえっ』


 桃太は怒りで強張った体を押し留め、力一杯握りしめていた赤茶けた短刀を手放した。


(紗雨ちゃん……)


 桃太の赤くなっていた瞳が、一瞬だけ青く輝いて黒に戻る。


「不覚でした。ファフ兄さん、逆上して失礼なことを言って、すみません」

「……正気に戻ってくれて良かった。技をサポートしていた凛音りんねちゃんも言っていただろう。乂君の〝飛燕返し(スワローターン)〟は、まだ未完成だ」


 ファフ兄が地面から拾い、差し出してくれた短刀を受け取りながら、桃太はなるほどと頷いた。


「確かに、乂に力を貸していた凛音さんも、このやり方では長持ちしないと不安がっていました」

「だろう? 乂君は、目標となる瑠衣るいさんの長剣技を模倣できなかったから、弟の碩志ひろし君の技を併用して、短剣の刀身をビームソードのように伸ばすことで〝飛燕返し(スワローターン)〟を実現した。その発想は良いんだけど、必要な基礎が出来ていないから、肝心の肉体が追従できていないんだ」


 乂自身、〝飛燕返し〟は、二河にかわ瑠衣るいという達人が、一〇年の鍛錬の果てに習得した奥義だと言っていた。

 桃太の相棒たる彼が手段を尽くしてなお、短期間での模倣には、限界があったのだろう。


「〝鬼神具〟も、飛燕返しのような奥義と同じだよ。自身の器量も考えず、安易に力を引き出せば、飲まれて破滅する。キミの学友だった伏胤ふせたね健造けんぞうが〝鬼の力〟に魅入られてザエボスに変じた頃から、何度も実例を見ているだろう?」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、ずっと乂を守ってくれていたようですね。 前作的には何をやるか分からなかったですが、別人なので良心と常識を持ち合わせているのかも知れません。 最後の発言、実はこの作品でずっと思ってい…
[一言] 蔵人も初めてファブニルの力を使った時は、飲まれかけてましたものねぇ
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