第378話 剣の中に潜むもの
378
西暦二〇X二年八月一二日黄昏時。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太ら冒険者パーティ〝W・A〟は、日本国にクーデターを引き起こし、異世界クマ国を乗っ取ろうとしたテロリスト団体〝K・A・N〟の中枢部隊を制圧した。
しかし、代表である七罪業夢は、桃太達の知らぬところで、迷宮を跋扈する鬼の首魁たる八岐大蛇・第七の首、吸血竜ドラゴンヴァンプに吸収され、己の部下もろとも、桃太達を喰らわんと襲ってきた。
桃太の相棒である金髪少年、五馬乂が、三毛猫に化けた少女、三縞凛音と協力して防戦したものの、遂には利き腕を骨折して戦闘不能となり――。
あわや二人の命が失われようとした時、桃太は、乂から受け取った短剣によって、時間の停止した、灰色の結界内部へと招き入れられた。
「この結界術は、カムロさん、それとも賈南さんか? いや、今の声は短刀から聞こえた。まさかっ」
「そんなに驚かないでおくれよ。これまで、ずっと一緒に戦ってきたじゃないか」
桃太が呆然と立ちすくんでいると、彼が握る赤茶けて錆びた短剣から、相棒である五馬乂に少しだけ似た金髪の長身青年が、あたかも幽霊のように浮かびあがった。
「そう言えば、乂の短剣は、〝鬼神具〟だった……」
桃太は、右手に握った短剣が、かつて乂の弟、五馬碩志が持つ独鈷杵型の鬼神具バサラとマウントを取り合うように、発光合戦をしていた光景を思い出した。
「石貫満勒と一緒に戦っていた大剣、ムラサマちゃんのように……、短剣の中にも貴方という意志が宿っていたのか」
桃太は正体不明の青年に威圧され、首筋から冷たい汗を流した。
「その金髪、乂に似ている。いえ、元は黒かったはずの乂の髪が、今は金色になったのは、貴方の影響ですか?」
「ああ、多分ね。桃太君は、ボクが誰だかわかるかな?」
桃太は、投げかけられた質問に生唾を飲む。
(最初は亡くなった乂の親父さんや、あるいは五馬家の親族じゃないかとも思ったけど、きっと違うな)
なぜなら、桃太の前に立つ金髪の青年が連想させるのは……。
自らの野心のために勇者パーティ〝C・H・O〟をテロリズムへと導き、研修生を含む大勢の命を奪った黒山犬斗。
虚栄心を満たすために、勇者パーティ〝SAINTSを率いて反乱を起こし、日本中に電気異常という災厄を引き起こした四鳴啓介。
そして、〝鬼神具・死を呼ぶ鐘〟に呑まれて、同胞の勇者パーティ〝K・A・N〟の団員をも手に掛けようとした七罪業夢。
そして、地球と異世界クマ国を侵略する鬼の首魁。八岐大蛇のエージェントを自称するクラスメイト、伊吹賈南。
……といった、大蛇に変身した者や、大蛇に縁ある者達ばかりだったからだ。
金髪青年が身にまとう禍々しい気配は、彼や彼女とそっくりと言っていい。
「〝勇者の秘奥〟である時空結界を使えるのは、一葉家の関係者か、元になった技術を知る存在だけだ。貴方はひょっとして、八岐大蛇の首なのか?」
「見事な推理、さすがはボクの〝推し〟だね! 改めて名乗ろうか。八岐大蛇、第五の首。隠遁竜ファフニールだ。略してファフ兄とでも呼んでくれ」
桃太は、八岐大蛇の首を自称する、ファフ兄の立ち居振る舞いが極めて穏健だったことに驚きつつも、彼の名前に首をかしげた。
「ファフ兄、ファフニール? どこかの神話のドラゴンですか?」
「おや、冒険者育成学校の授業で習ったかい? 地球側があてはめたボクの役名は、北欧やドイツを荒らした悪竜らしいよ。だけど、ボクが大蛇の一柱だとよくわかったね。やっぱり強そうに見える?」
あとがき
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