第377話 急転
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「これでトドメだっ」
「ニャン(成敗!)」
「GAAAAAAA!?」
金髪の長身少年、五馬乂と、三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、吸血竜ドラゴンヴァンプの首を遂に落とした。
竜の正体が、日本国へクーデターを起こしたテロリストの首魁、七罪業夢であれば、必ずやこの一撃で幕を引いたことだろう。
「やったぜ!」
されど、首を喪失したドラゴンヴァンプは全身から悲鳴のような音をあげながらも、自らの肉体を赤黒い血液のゲル状に変化させ、負傷した首と前足を再生する。
「嘘だろ? たった今、首を落としたんだぞ。いくら吸血ジジイでも生きていられるのか?」
「ニャー(乂、さっきから勘違いしているわよ。伊吹さんや部下の人達も言っていたでしょう。ドラゴンヴァンプはドラゴンヴァンプ、もうワタシ達の仇、七罪業夢ですらない怪物よ!)」
乂は、家族の仇討ちに逸るあまり、凛音が懸念したとおりのミスを犯していた。
全長五メートルの巨大な爬虫類は、砂埃と木の葉を置き去りに垂直に上昇。復活した頭部の口には、赤黒い光が輝いている。
「シット(くそお)! もう一度上空からブレスを吐くつもりか?」
「ニャっ(そうはさせない。ジェットで飛ぶわ)」
乂は鬼術で足元から風を吹き出し、凛音が火をつけて擬似的なジェット推進を作りだし、ドラゴンヴァンプを追った。
そして茜色の木々が彩る谷から、黄昏の空へと飛びたとうとする吸血竜に追いつき、すれ違いざまにブレスを放とうとする胸元へ渾身の一撃を放つ。
「首がダメなら、心臓をえぐるまでだ。ゴー・トー・ヘル!」
乂は、勝利を確信する。
しかし光の刃を胸の鱗に当てた直後、ボキン、と乾いた音を立てて、彼の腕が自身の〝風の力〟と〝鬼の力〟に耐えきれず折れた。
「乂っ!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、地上から空へ手を伸ばすものの――。
「……すまん、相棒。あとは頼む」
「ごめん。最後の最後で未来予測を失敗しちゃった」
乂は金色の髪を風に吹かせながら困ったように微笑み、三毛猫姿の凛音を抱き寄せて額に口づけると、桃太に短剣を投げ渡す。
「GAAAAAA!!」
ドラゴンヴァンプはそんな乂と凛音の身体を握りつぶさんと、ギラギラと輝く爪が生えた前肢を伸ばした。
「よせっ、やめろおお」
「サメエエエッ」
「「うわあああああっ」」
「「が、乂さあんっ」」
桃太が、焔学園二年一組の生徒が、異世界クマ国の鴉天狗が、悲鳴をあげると同時に――。
乂から受け取った〝鬼神具〟たる短剣が、沈みゆく太陽にも匹敵する黄金色の光を放った。
「時空結界――展開」
次の瞬間、世界が灰色に染まり、巻き上げれられた木の葉や土埃が空中でとまった。誰も動かない、動けない。
まるで動画の停止スイッチでも入れられたかのように、桃太をのぞく、周囲の時間が止まっていた。
「この結界術は、カムロさん、それとも賈南さんか? いや、今の声は手の中から聞こえた。まさかっ」
「そんなに驚かないでおくれよ。これまで、ずっと一緒に戦ってきたじゃないか」
桃太が時間の止まった灰色の世界で立ちすくむ中……。
彼が握る赤茶けて錆びた短剣から、乂に少しだけ似た金髪の長身青年が、あたかも幽霊のように浮かびあがった。
あとがき
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