第376話 新必殺技・〝飛燕返し〟
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「乂、その技はセグンダさんのっ……」
「イグザクトリー(そのとおり)。瑠衣姉のニセモノ、セグンダを討つためには、同じ必殺技が必要だ。これがオレとリン、二人の〝飛燕返し〟だ!」
西暦二〇X二年八月一二日夕刻。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟にて、相棒の金髪少年、五馬乂が八岐大蛇・第七の首、吸血竜ドラゴンヴァンプを相手に披露した必殺技を目撃して、興奮を隠せなかった。
「シャシャシャっ。リンの手助けを借りてようやくだが、なんとか形にできたぜ」
「ニャーっ。(治癒術の応用で手の筋肉と神経を変化させて、未来予測で敵の攻撃を反射させるように、剣を振っているの。でもこんな無茶、長くは続かないわよ)」
色とりどりの木の葉が舞う谷を舞台に、乂は風の体術と炎の鬼術を利用したジェット噴射で飛び回り、吸血竜ドラゴンヴァンプを追い詰めてゆく。
乂の短剣から伸びる光刃はリーチが長く、まるで見当違いの方向から飛ぶために、竜が肉体の一部を切り離し、吸血することを防いでいた。
「おいおい、マジかよ?」
「まさか、伝説の〝鬼勇者〟。二河瑠衣以外に使える者がいたなんて……」
業夢の部下である、ノコギリのような乱杭歯が目立つ中年男、索井靖貧と、カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔は、眼前の光景に驚愕の息を漏らした。
ベテラン冒険者である二人は、若き日に、彼らの上司、七罪業夢が罠にハメて二河家と五馬家を惨殺した一〇年前の政変現場に居合わせていた。
故に、当時最強と謳われた二河瑠衣だけが可能とした必殺剣を知っていたのだ。
「もう一度いくぞ、奥義開帳・〝飛燕返し〟!」
乂が空中から繰り出す、まったく軌跡の読めない光の剣にドラゴンヴァンプは恐れおののき、必死で爪で防御しながら火花を散らす。
飛燕返しは、竜が身を守ろうとする爪や尻尾すらも反射して、空飛ぶ爬虫類の巨体を四方八方に振り回した。
「GAAAAA!」
その上で、あたかも燕が空の虫をついばむように光刃が舞い戻り、吸血竜ドラゴンヴァンプの右前足を切断する。
「これまでの鍛錬はこの日のためにっ」
「GYAAAAAAAA!?」
手負いの竜は身をよじり、口を大きく開けて吠えた。
大気が激しく振動し、赤黒い血で出来た翼が嵐のような風を巻き起こし、雹を降らせようとする。
「させるか! 我流・手裏剣」
しかし、桃太が衝撃エネルギーを込めた石礫を三〇発、短機関銃も真っ青な速度で投げつけて右の片翼に穴を空けることで、技の発動を止めた。
「GAAA!?」
乂と凛音に右前足を奪われ、桃太の手裏剣で右翼を蜂の巣にされ、全長五メートルに達する巨竜も耐えられなかったか、金属をすりあげるような苦悶の声をあげる。
「サンキュー相棒。リン、行けるか」
「ニャー、任せて。すべて見切って見せる」
乂は猫になった凛音を肩に乗せたまま、二人の幼馴染たる二河瑠衣を殺め、彼女の遺体を弄んだ仇、七罪業夢を討つべくジェット噴射で疾走。
「ドラゴンヴァンプ。いや、七罪業夢。お前に殺された親父、五馬審と、瑠衣姉さんの仇、討たせて貰う!」
乂は〝鬼の力〟で瞳を赤く輝かせながら、短剣から伸びる光刃で、ドラゴンヴァンプが繰り出した尻尾を断ちきり――、
「GAAAA!」
凛音が未来予測で、苦し紛れに放たれた吸血の霜を祓い、降り注ぐ影の武器を反射し――、
「これでトドメだっ」
「ニャン(成敗!)」
「GAAAAAAA!?」
乂と凛音は、遂に吸血竜ドラゴンヴァンプの首を落とした。
竜の正体が本当に七罪業夢であれば、必ずやこの一撃で幕を引いたことだろう。
あとがき
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