第375話 乂と凛音、二人の切り札
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勇者パーティ〝TOKAI〟の代表にして、鬼の首魁たる八岐大蛇のエージェント、八闇越斗は、地球の日本国と異世界クマ国の間に――惑星間戦争を引き起こそうと、入念な準備を整えていた。
「日本の新しい勇者、出雲桃太――。
クマ国代表の娘、建速紗雨――。
日本国にクーデターを引き起こした七罪業夢――。
クマ国の防諜部隊ヤタガラスの現場指揮官、葉桜千隼――。
死んだはずの元八代勇者パーティ代表の、五馬乂と三縞凛音――。
これらの死体が一カ所で発見されれば、誰もがどちらかの世界が攻撃したのだと疑わざるを得まい。ましてやクマ国政府に反逆した過激派団体〝前進同盟〟が地球の失われた国々を復活運動に勤しんでいる今は、格別に効くことだろう。二つの世界よ、争いの果てに我らが贄と堕ちるがいい!」
状況は、黒幕たる八闇越斗が物陰で嘲笑するほどに、絶望的に詰んでいた。
それでもなお――。
「シャシャシャ。どいつもこいつも景気の悪い面しやがって。一丁、ド派手な花火をあげてやる。トカゲ野郎め、瑠衣姉さん、いや、セグンダ対策に特訓した必殺技を見せてやる。リン、あれをやるぞ」
「ニャンっ(どうなっても知らないからねっ)」
金髪の長身少年、五馬乂は三毛猫に化けた幼馴染みの三縞凛音と共に、七罪業夢を喰らったドラゴンヴァンプに向かって疾走する。
「おいバカやめろ」
「相手はドラゴンだぞ。人間じゃ叶いっこないっ」
索井や郅屋といった業夢の元部下達は、乂を止めようと追いすがったが、すぐに目をむくことになる。
「アイゴットユー(まかせな)。ヒトに仇なす鬼や怪物を倒してこそ、勇者なんだよ。とっておきの切り札を見せてやる。いくぞ、奥義開帳!」
乂が手に握る黄金の光刃を伸ばす短剣を閃かせるや、最初はV字、次にジグザグ、更に円と、あたかも燕が宙返りするような変幻自在の軌跡で動き――、
カメレオンのように長い舌と背に壺のような器官を持つ全長五メートルの空飛ぶ爬虫類、吸血竜ドラゴンヴァンプが操る影の剣や槍をことごとく〝跳ね返した〟からだ。
「な、何が起きた?」
「え、ええーっ」
竜に呑まれてしまった業夢も、彼の部下達も、自分たちの切り札が、こんなやり方で牙を向くとは想像もしなかっただろう。
「GAAAAA!?」
ドラゴンヴァンプは巨体が仇となり、影の装甲〝七つの大罪〟すらも、反射された影の武器で貫かれ、苦悶の悲鳴を漏らす。
「ウート(やったぜ)! やっぱり、同じ材質なら通じるんだな。ドラゴンヴァンプよ、下手に学習したことが仇になったな。ゴツい鎧を着たら動きが鈍るんだよ」
乂は自身の操る風と凛音の使う炎で加速、影の鎧をまとったことで動きの鈍ったドラゴンヴァンプの爪や尻尾をかいくぐり、再び懐へ飛び込んだ。
「これが、〝オレ達〟の奥の手だあっ」
そうして、背中に『漢道』と刺繍した革ジャンパーをはためかせながら、短刀から伸びる光刃で影の武器を反射しつつ、刃の兜や装甲を削り砕く。
「乂、その技はセグンダさんのっ……」
「イグザクトリー(そのとおり)。瑠衣姉のニセモノ、セグンダを討つためには、同じ必殺技が必要だ。これがオレとリン、二人の〝飛燕返し〟だ!」
あとがき
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