第36話 開戦
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「柳さん、祖平さん。自分達の身を守る為にも、その子達の為にも、俺達に協力して欲しい」
西暦二〇X一年、一一月二五日昼。
出雲桃太と一行は、今やテロリスト団体となった元勇者パーティ〝C・H・O〟に追われる、柳心紺と、祖平遠亜を受け入れると決めた。
「ありがとう、出雲君。矢上先生も、遠亜っちとアタシを信じてくれて、嬉しいよ……」
「心紺ちゃん、泣かないの。紗雨ちゃん、乂君もよろしくね。乂君って、アメリカから来たの? 変わった格好だね」
「いいや日本人さ。イケてるだろう?」
「え、ええ。カッコいい、と思うわ」
逃亡者二人は、五馬乂という、死んだ五馬家当主の名前に驚いたようだが、ナチュラルな金髪とパンクファッションから、同姓同名の別人と判断したらしい。
「皆、力を貸してくれ。カムロさんより先に無法者を制圧して、戦争を止めるぞ!」
「オーケイ。眠っちまったイナバのガキ二人も守らなきゃな。相棒のおかげで敵戦力も把握できたし、分断してブッ転がそうぜ!」
「焼かれる里はイナバが最後サメ。悪いテロリストにはお仕置きサメ!」
「兎耳の子供達は巻き込まないよう、見張り小屋に隠しましょう。お姉さんも協力するわ。痒みをもたらすイナバの実なんて、罠にもってこいだもの。……待ち伏せるなら、あちらの茂みと大樹の上、向こうの岩陰がオススメね」
矢上遥花は幼少期から冒険者として身を立てたベテランであり、育成学校の教師を務めるだけの知識もあって、すぐさま効果的な迎撃作戦を準備してくれた。
「乂、紗雨ちゃん。さっきの索敵で自信が持てた。隊長の林魚旋斧とは因縁もあるし、〝戦士〟四人の相手は任せてくれ」
桃太は、息をこらして山林の茂みに潜み……。
林魚を先頭に、鬼の仮面をかぶった冒険者四人が山道を通り過ぎた瞬間、奇襲をかけた。
「てめえっ、行方不明の劣等生か!」
「裏切り者同士、柳や祖平と組みやがったかっ」
〝戦士〟の役名、〝鬼の力〟に汚染された四人は聴覚や反応速度も強化されているのだろう。
桃太が枝をかき分けて飛び出すや、鬼面から見える瞳を真っ赤に光らせながら振り返った。
「ひゃはは、〝斥候〟なんて弱っちい役名に何ができる?」
「おれ達はあれから、魍魎って強敵を退治できるほど強くなったんだ。お前とは地力が違うんだよおおお」
研修生三人は、桃太も戦った怪物、魍魎から剥いだ、巻き貝を加工した鎧をまとい、角と毛皮をよりあわせた棍棒で殴りかかってきた。
「そうか、強くなったんだね。だけど、俺だって厳しい修行を乗り越えたんだ!」
桃太は、異界を巡る自然の力を借りるべく、丹田に力を入れて深呼吸。瞳を青く輝かせながら、身体の生命エネルギーを強め、衝撃を生み出して強化、コントロールする。
「〝生太刀・草薙〟」
「「「あばあああっ」」」
桃太が手刀で薙ぐや、不可視の衝撃が浸透し――、三人は握る棍棒がポッキリと折れ、着こんだ鎧もバラバラに粉砕、鬼の仮面を顔から落として膝をついた。
「つ、強いっ」
「レア装備がこうも簡単に壊されるっ。勝てるわけねえっ」
「誰だよ、こいつを劣等生なんて呼んだスカポンタンは?」
とはいえ桃太はいまだ未熟で、技の有効射程が二メートルと短く、リーダー格の一人を倒し損ねた。
「また会ったな。そのリーゼントは忘れもしない。林魚旋斧か!」
「サマをつけろや、出雲桃太。おれは出世して隊長だ。追放された劣等生や、おっ死んだ学級委員長とは違うんだよおおっ」
残る〝戦士〟は、血に濡れた巨大斧を振り回す林魚旋斧。
かつて桃太に陰湿なイジメを加えた、犯人の一人だった。
あとがき
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