第374話 死中に活
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「こいつ、さっきから学習してやがる。吸血竜ドラゴンヴァンプは、人間の技、〝勇者の秘奥〟すらも使えるのか!?」
赤い瞳をした長身の金髪少年、五馬乂は、自らの短剣から伸ばした光刃で抗うものの、ドラゴンが生み出した影の武器は、剣に槍、槌にハサミが数百と数が違う。
「うわあああっ」
「きゃあああっ」
影の武器を利用した遠距離からの爆撃は、乂の相棒、出雲桃太のクラスメイトや、共闘する異世界クマ国の鴉天狗達を容赦なく切り刻み、鮮血が谷を赤く染めてゆく。
仲間達も朝から夕方まで長くつづいた戦闘で、もはや回避する体力も、防ぐための武具を残ってはいないのだ。
「……カムロさん曰く、そもそも〝勇者の秘奥〟は、獅子央焔が鬼の技術を、人間でも再現できるように落とし込んだ技だそうよ。由来を鑑みるなら、鬼の首魁たる八岐大蛇の首なら、できて当然かも知れない。この数、まともにやり合うのは厄介ね」
乂の首にマフラーのように巻きつく猫に化けた幼馴染、三縞凛音が瞳から炎の熱線を発射して迎撃するものの、焼け石に水のようだ。
「さっきから喋っているのは、クマ国のネコか? リーチ自在というのは、確かに強みだが、親分の〝影の使役術〟もそうなんだ」
「五馬家……、たとえ〝鬼勇者〟級の攻撃であっても、個人の攻撃じゃ、大蛇の首を止めるには至らないのか」
業夢の部下だった索井靖貧と郅屋豊輔は、乂の攻撃では無理と判断し――。
「おいカラス、ではなかった、葉桜千隼よ。ヨシノの里から援軍は呼べないのか? このままではジリ貧だぞ」
「実は、朝から定期的に〝紗雨姫を発見したゆえに迎えを頼む〟と式神を送っているのですが、里に着く前に消滅させられているようなのです」
「日本政府にクーデターを起こした元勇者パーティ〝K・A・N〟の残党か、クマ国政府と対立している過激派団体〝前進同盟〟が兵を伏せているのでしょうか?」
冒険者パーティ〝W・A〟の指揮官である、矢上遥花と、参謀的立場にある伊吹賈南。そして異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの小隊長を務める葉桜千隼も、遂に撤退について検討を始めた――。
「挟み討ちにされる危険性を考えれば、クマ国への脱出は困難でしょう。第八階層〝残火の洞窟〟へ転進するのはいかがでしょうか?」
「ここから最も近いゲートの先には、先に戦った七罪業夢と同様に、日本へ反乱を引き起こした六辻家と〝SAINTS〟が作りあげた巨大軍事要塞、〝三連蛇城〟があります。騒ぎになれば、確実に見つかってしまう」
「おいおい、前門の虎、後門の狼か。まるで誰かが狙ったかのようなピンチじゃのおっ」
彼女達は知る由も無いが、七罪業夢を吸血竜ドラゴンヴァンプに変えた、八岐大蛇のエージェント、八闇越斗が、目障りな桃太と乂を始末しつつ、地球とクマ国の間に異世界戦争を引き起こそうと整えた盤面だったため、退路はどこにもなかった。まさに絶体絶命の死地――。
「シャシャシャ。どいつもこいつも景気の悪い面しやがって。一丁、ド派手な花火をあげてやる。トカゲ野郎め、瑠衣姉さん、いや、セグンダ対策に特訓した必殺技を見せてやる。リン、あれをやるぞ」
「ニャンっ(どうなっても知らないからねっ)」
あとがき
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