第372話 悪党の意地
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「すまんね、親分。俺はアンタに命を救われた恩義を返すために死ぬつもりだった。でも、こいつらにも一度命を助けられた。借りは返さないとツジツマがあわないだろう?」
「貴方に喰われるのは構わないんですが、どうやら今の貴方は七罪業夢ではないらしい。助けられておいて何もしないのは、すわりが悪いんですよ」
ノコギリのような乱杭歯が目立つ痩せ男、索井靖貧。
カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔。
七罪業夢の部下である元勇者パーティ〝K・A・N〟の団員達は、一度命を救われた恩義からか、冒険者パーティ〝W・A〟とヤタガラス隊を庇ったのだ。
「おいオッサン……」
「誰がオッサンだっ。クソガキども、いくら若いといっても一日中戦って体は限界だろう? 俺達が殿を引き受けるから今すぐ下がれ」
「まあ、キミたちが長時間戦う羽目になった理由は、私たちがそうさせたからですがね。作戦だから詫びる気はありませんよ」
彼らの総大将たる七罪業夢は、吸血竜ドラゴンヴァンプに乗っ取られたことで、もはやかつての部下達をもエサとしか見ていないのか――。
「GAAA!」
蛮行を阻もうとする五〇人の部下達を、全長五メートルに達する巨体で跳ね飛ばし、尻尾で薙ぎ払い、踏み付けにした。
「どちくしょおお」
「ぐぎゃああああ」
谷の折れた樹木や落ち葉が鮮血に染まるが、元勇者パーティ〝K・A・N〟の団員達は交戦をやめない。
「親分の意識を取り戻す、なんて言わねえ。〝夜狩鬼士〟隊は七罪業夢に殉じる」
「我々〝吸血眷属〟は、業夢様の子分も同然。頭がやられたんだ、一矢は報いる!」
七罪家に伝わる〝勇者の秘奥〟、〝影の使役術〟で、影の剣や影の槍を作って抗う、索井や郅屋達が気に障ったのか――。
「GYAAAAAAAA」
吸血竜ドラゴンヴァンプは咆哮をあげるや、血でできた翼をバサバサと広げて黄金色に染まる空へ飛翔し、血塗られた顎を大きく開いて口腔にエネルギーチャージを始めた。
「ギャハハっ。あ、あれは流石に止められない。俺達を置いて走れ!」
「フフフっ。あれを食らったら死にますよ。急いで!」
覚悟を決めた業夢の部下達は、冒険者の後輩達を逃がそうと囮となろうとしたが――。
「オッサン達を置いてケツをまくれるかよ」
「地球の方、逃げるなら一緒にです」
焔学園二年一組の研修生と、異世界クマ国の鴉天狗は、断固として逃亡を拒否した。
「バッキャロー、これじゃあ間に合わない」
「ああもう、最後までうまくいかないっ。まったくツイてない人生だった!」
元勇者パーティ〝K・A・N〟の中高年冒険者達は、絶望で頭を抱えたのに対し――。
「サメエ。まだ終わってないサメエ」
「紗雨ちゃんのいう通りだ。そうだろう、出雲!」
冒険者パーティ〝W・A〟の少年少女達がいまだ希望を失っていないのは、これまで積み重ねてきた信頼故だろう。
「そうとも、ここからだ。〝憑依解除〟!」
あとがき
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