第371話 血を操る異能、その脅威
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「うわあああっ、痛いですわああっ」
「ああっ、この雹、血を吸っているのですか」
赤いお団子髪が目立つグラマラスな少女、六辻詠ら、冒険者パーティ〝W・A〟の団員や、前髪の長い中性的な女隊長、葉桜千隼ら異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの隊員達が悲鳴をあげる中――。
吸血竜ドラゴンヴァンプは、彼や彼女達から血とエネルギーを吸った赤黒い霜をより集めて、失われた翼や壺に似た部位を構成、再生した。
「さすがは八岐大蛇、第七の首。自ら負傷部分を破壊して攻撃手段に変え、ドレイン能力で回復するのか? 血液操作でここまでやれるとは驚きよの。そうか、ドラゴンヴァンプめ、業夢の肉体を乗っ取ったか!」
桃太達に助力しているものの、元々は、八岐大蛇のエージェントである伊吹賈南は、昆布のように艶のない黒髪を振り乱しながら走りでて、クラスメイトである焔学園二年一組生徒達を助けるために、半ば破壊されたローブ罠や杭罠を投じて竜の視線を引きつける。
「伊吹さん、それってどういう意味ですか?」
同時に最前線へ飛び込んだ、担任教師の矢上遥花は大きな胸を弾ませながら、自らの武器である赤いリボンを伸ばし、恐るべき怪物の爪を跳ね除けつつ、賈南の不可思議な発言の真意を尋ねた。
「矢上遥花。どういう意味も何も、ドラゴンの動きを見ろ。まるで獣だろう? エゴを肥大化させたが故に、人間の自意識を残していた黒山犬斗や四鳴啓介と違い、こやつはもう七罪業夢ではない」
なるほど、吸血竜ドラゴンヴァンプには、これまでの八岐大蛇の首にあった理性が欠けていた。
ただし、血を媒体に、戦闘相手からエネルギーを吸い取る能力は、皮肉にも野生的な竜の戦闘法にこれ以上なくマッチしている。
「今、あの肉体を動かしているのは、傍迷惑な恨みつらみを重ねた怨霊よ。業夢め、おおかた抱え込んでいた別の鬼神具にでも飲まれたのだろうが、ここまで考えなしとは思わなかった!」
実のところ、業夢をドラゴンへ変えたのは、八闇越斗が飲ませた〝鬼神具・闇の血〟が原因だったのだが、賈南もそこまでは見抜けなかった。
「わかりました、切り替えて新たな対策を考えます。みなさん、〝夜叉の羽衣〟を盾にしつつ、後退してください。……布が千切れる!?」
遥花は栗色の髪を束ねる赤いリボンを伸ばして応戦するも、長引く戦闘で強度が弱っていたのか、布地がビリビリと破けてしまう。
「矢上先生、〝砂丘〟でカバーするよ。戦闘機能選択、モード〝盾爪〟……嘘でしょ、割れるのっ?」
「心紺ちゃん、下がって。開け、〝胡蝶蘭〟。……もう、〝内部空間操作鞄〟に入れた武器が残ってないっ」
「BUNOO!?」
吸血竜ドラゴンヴァンプは、すでに矢つき刀おれ、疲労困憊だった生徒や鴉天狗達を容赦なく叩きのめし、谷に悲鳴がこだました。
「装備がもたないっ」
「い、痛い、うでがあ」
「あ、足が曲がって」
このままでは、あわや全滅かと思われたまさにその時。
「ったく見ていられないな。〝傲慢の剣〟よ、防げっ」
「こうして見ると、〝W・A〟も、ヤタガラスの小隊も、やはりルーキーですね。〝強欲の槍〟よ、阻めっ」
テロリスト団体〝K・A・N〟のベテラン冒険者達は、〝影の使役術〟で生み出した剣と槍で業夢の繰り出す爪を断ち切り、防いだ。
傷からぶちまけられた雹がドレイン能力を発揮するものの、影であれば血を吸われる心配もない。
「すまんね、親分。俺はアンタに命を救われた恩義を返すために死ぬつもりだった。でも、こいつらにも一度命を助けられた。借りは返さないとツジツマがあわないだろう?」
「業夢様、貴方に喰われるのなら構わないんですが、どうやら今の貴方は七罪業夢ではないらしい。助けられておいて何もしないのは、すわりが悪いんですよ」
あとがき
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