第369話 力を合わせて
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「あばよ、豊輔。喧嘩の続きは……」
「おさらばです、靖貧。地獄でやるとしましょう」
総大将である七罪業夢が鬼の力に汚染された時はそうすると、事前に示しあっていたのだろう。
ノコギリのような乱杭歯が目立つ痩せ男、索井靖貧、カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔をはじめとするテロリスト団体〝K・A・N〟の悪人達は、諦めたように脱力したまま、吸血竜ドラゴンヴァンプに食われようとした。しかし。
「啓介さんの時のような、過ちは繰り返さない。我流・長巻!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は腕に巻きつけた衝撃刃で、吸血竜ドラゴンヴァンプの鋭い爪を受け止めていた。
「オレの風と凛音の炎で疑似ロケットを作ったんだ。竜の速度にだってまけやしないぜ」
「ニャフンっ、世話が焼ける!」
ドラゴンヴァンプに上空を抜けられた桃太は、自らがかぶる仮面となった相棒、五馬乂と、首にマフラーのように巻きつく三毛猫に化けた少女、三縞凛音の協力を得て舞い戻ったのだ。
「おいおい、何の真似だ!?」
「敵である我々を助けるのか?」
「GAAAA!」
索井靖貧や、郅屋富輔は、吸血竜ドラゴンヴァンプの血塗られた爪牙を前にしてなお、わけがわからないと首を傾げた。
しかし、偏ったイデオロギーに歪んだ大人たちは、まっすぐな若い世代の行動に目をむくことになる――。
「おっさん。俺らは四鳴啓介からずっと、八大勇者パーティの酔っ払いぶりには頭にきているんだ。自己満足で死に逃げされるのは勘弁だ」
「うっとりする見事な筋肉だ! 我らが祖霊よ。ヒグマの剛力を彼らに与えたまえ!」
モヒカンが雄々しい林魚旋斧ら戦士部隊が、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラス隊の支援を受けて怪力を発揮。
割れた盾や折れた長柄の武器を手に、テロリスト団体〝K・A・N〟の団員たちを庇って、ドラゴンヴァンプとの間に割り込んだ。
「酔っ払いとはひどいな。我々は崇高なる革命の理念のために命をかけたんだ」
「ここで死んでも悔いは無い。そんな装備じゃ戦いにならないよ。我々のことは放っておいて、逃げなさい」
これには、隊長格である索井と郅屋も困惑し、先程まで交戦していた生徒や鴉天狗達に逃走を勧める始末だ。
「他人を利用し、利権を貪ることの何が革命だよっ。思えば行方不明となった三縞凛音だけが本気で日本を変えようとしていたのかも知れない。彼女のやった反乱と殺戮を許す気はないけれど」
「いいねいいね。関中よ、ダメな勇者パーティどもにもっと強く言ってやれ。われわれこそが、せいぎのみかただぞー」
「あ、あやしい。いえ、協力します。我らが祖霊よ。鷹の目を彼らに宿らせよ」
小柄ながらもワイルドな風貌の少年、関中利雄と、昆布のように艶のない黒髪が特徴的な痩せっぽちの少女、伊吹賈南が、鴉天狗達の術で視野を広げ、飛び道具で攻撃の隙をついてドラゴンヴァンプをはばみ――。
「伊吹の言い方はともかく、我々はアンタ達みたいな汚い大人の、身勝手な自己満足にはうんざりなんだ。死ぬなら法の裁きを受けて死刑になってくれ」
「地球の日本か、それともクマ国かはあとで決めるとして、ちゃんと犯罪者として引き渡しますからね!」
「確かに罪を裁くのは、法であるべきでしょう。我らが祖霊よ。キツネの法力を彼らに顕せ」
羅生正之らもまた、鴉天狗の術師達から強化のバックアップを受けながら鬼術で反撃する。
「出雲さん。先ほどの戦いで冒険者パーティ〝W・A〟の実力を知りました。思うように戦ってください。我々ヤタガラス隊が助力します」
「ありがとう、葉桜さん。吸血竜ドラゴンヴァンプは、このまま倒す!」
あとがき
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