第３６６話 業夢の研究成果と天下餅の行方
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「同朋を利用し利用されるのが、お前の望んだ世界だろう？ ああ、その顔が見たかった。他人を操ろうとするものほど、操られた時にいい顔をする。〝死を呼ぶ鐘〟が、破壊されているのも好都合だ。僕の手でお前を変えてやる。目覚めよ、八岐大蛇・第七の首！」
勇者パーティのひとつ〝ＴＯＫＡＩ〟の代表であり、他者へと成り替わるコピー能力を持つ男、八闇越斗は、七罪業夢へ見せつけるように、一瞬だけ六辻剛浚に変身して言い放ち、彼の首を掴む。
「やめろ、何をす、ゲホッグヒャッ」
「僕が手を加えた〝鬼神具・闇乃血〟を――否、お前が〝啜血鬼公ナハツェーラー〟となる為に開発した、人を鬼に変えるエキスを飲ませるのさ。ああ、元はお前や部下達が〝鬼の力〟に飲まれないよう、悪影響を抑える為に開発したんだっけ？」
越斗は懐から瓶に入ったドス黒い血のような液体を取り出して、ゆらゆらと振りながらクツクツと嘲笑った。
「だが、他ならぬお前がよく知っているだろう。お前が葬った二河瑠衣や大勢の冒険者の死体を何度となく切り刻み、鬼や怪物の肉で埋めて、蘇生術や強化術を試みたのは何のためだ？ 〝鬼の力〟から世を救うなど真っ赤なウソ。本当はお前自身が最強へと上り詰めたかったからだろう。その願いを叶えてやろうというのさ」
「ぎゃぼっ」
越斗は人間離れした力で業夢の口をこじ開けると、〝鬼神具・闇乃血〟なる赤黒い液体を流し込んだ。
「クククッ。エセ策士め、真の策士なら、僕のようにスマートでないとね」
越斗は笑う。
赤い瞳に狂ったような歓喜をにじませて。
表の政争という舞台で、六辻剛浚がつき、七罪業夢がこねた、天下餅が――楽屋裏で座っていた彼の手のひらに転がって来たからだ。
「冒険者パーティ〝Ｗ・Ａ〟と、クマ国のヤタガラス小隊、貴様の部下〝吸血眷属〟隊も、不慮のモンスター襲撃で全滅の最期を遂げることになる。これぞ完全犯罪。一撃で最大の効果を生み出す、最高に頭の良い戦い方ってワケだ」
「い、いやだ。わしは人でないものになんてなりたくない。わしは本当は……」
一方、自らが生み出した技術によって、人間でなくなろうとしている業夢は、政敵であった五馬審の息子、五馬乂の弾劾を思い返していた。
『ファック！ 賈南も言っていたことけどな、お前は陰でこそこそ悪事をたくらむだけが取り柄のツマラナイ野郎だ。何もかも御破算にする癖に、まともな政治ビジョンもなければ、根回しすらもいい加減なんだよ』
業夢は嘆く。
あの孫のような年齢の少年も、眼前で笑う狂った悪鬼も、まるでわかっていない。
彼は陰謀家になりたかったわけではない。冒険者として前線に立ち続けた理由、長きにわたり〝鬼の力〟に触れながら、正気を保ち続けられた理由はひとつだ。
『業夢、行こうぜ』
若き日に、モンスターを相手に毅然と立ち向かう後ろ姿を思い出す。
七罪業夢がなりたかったのは、生涯追い続けた背中はいつだって――。
「わしは、本当はっ、獅子央焔のようなヒーローになりたかったっ」
「自分の欲望のために、恩人を殺し、部下を殺し、死体で遊ぶ奴はヒーローとは呼ばない。お前はとっくに鬼に堕ちている！」
「いやだああ。わ、わしが変わる。変えられる。だ、だれか助けてくれ、ほむらああああああっ」
業夢が夢中で伸ばした手は、何も掴むことはない。
「舞台蹂躙 役名変生――〝大蛇第七の首――吸血竜ドラゴンヴァンプ〟！」
あとがき
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