第35話 修行の成果
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桃太達は、ついに目的地で会ったイナバの里に辿り着いたものの、既にテロリスト団体、〝C・H・Oに焼かれた後だった。
更に、団員の柳心紺と、祖平遠亜が、兎耳と丸い尻尾の生えた幼子を抱いて接近してくるのを見て、桃太は自分に判断を任せて欲しいと提案した。
「斥候は、目と耳が長所だからね!」
桃太がトンと地面を叩くや、衝撃が波となって山々を走り、潜水艦のソナーのように人間の位置を返してくれた。
(カムロさんが教えてくれたのは〝生太刀・草薙〟だけじゃない)
牛頭の仮面を被った師匠は、額に十字傷を刻まれた少年に必殺技を習得させるため、衝撃の操作と知覚をみっちりと教え込んでいた。
(よし。場所さえわかれば、後は耳を澄ますだけだ)
桃太の黒い瞳が青く輝く。
彼の耳が風と大地の振動を捉え、言葉として再構築する。
「ギャハハ、燃やせ燃やせ。〝鬼神具〟を手に入れたお祝いだ。天を焼く炎よ、伏胤健造の英雄譚を照らす光となれっ!」
「張間聡太隊の武勲を稼ぐチャンスなんだよ。モンスターの巣は徹底的に破壊するんだ」
里では二〇名あまりの元研修生が、酔っ払ったように破壊活動を繰り広げていた。
彼らの眼前にあるのは民家だというのに、もう理性や良心が残っていないのかも知れない。
また里に続く山道の入り口では、一〇人の禍々《まがまが》しい気配が集まって、気勢をあげていた。
「おれ達、林魚旋斧隊は、これより追放者をぶっ殺す。みんな、準備は出来てるな?」
「舞台登場、役名宣言――〝戦士〟! 林魚隊長、レアモンスターから剥いだ新装備で固めた俺たち四人なら、物理攻撃も魔法攻撃も効かねえ。炎の浄化に反対した裏切り者どもをぶっ殺してやる!」
「舞台登場、役名宣言――〝黒鬼術士〟! せっかく捕まえたレアな獲物を盗るなんて許せないよね。安全地帯から四人がかりで追い詰めるって、楽しいなあ」
「舞台登場、役名宣言――〝白鬼術士〟! がんがん燃えてテンションあがるっ。私達二人がいる限り、怪我の心配もないよ」
「「「これぞ我ら選ばれし研修生、林魚隊一〇人の必勝作戦。ターゲットは、柳心紺と祖平遠亜。さあ人狩の始まりだ!」」」
桃太は聞いたままを伝えて、心紺と遠亜の疑いはひとまず晴れた。
「ああっ、柳さんも祖平さんも無事で良かった!」
「センセー。アタシたちは逃げてきたけど、この子達のパパとママが殺されたんだ」
「神社の倉庫を勝手に荒らして、止めた宮司さんと奥さんを、耳の見た目が違うからモンスターだって切り捨てた。あの人たちは正気じゃないっ」
遥花がたどり着いた二人と幼子を抱きしめたものの、今度は乂も阻もうとはしなかった。
「最初に来るのは一〇人、だけど他の二〇人もこっちに来るって言ってる。迎撃しよう」
「すごーい、とっても便利サメ。〝斥候〟って言うサメ? カッコいいサメ!」
「クール! さすがは相棒、スパルタジジイの特訓をくぐりぬけただけあるぜ」
「褒めすぎだよ。カムロさんの教え方が上手かったからさ」
桃太は紅葉が舞い落ちる山道で、紗雨、乂の二人と手を重ねた。
元教師である遥花と、元同期生だった心紺と遠亜は、泣き疲れて眠った幼子二人をあやしながら、額に十文字傷を刻まれた少年を呆然と見ていた。
「男子三日会わざれば刮目して見よ。という格言もあるけれど、桃太君は変わり過ぎです。カムロ様は結界内部なら、時間にも干渉できたはず。まさか……」
「遠亜っち、これってどういうこと? あの劣等生はクソステータスで有名な、学級委員長のオマケだったよね?」
「心紺ちゃん。出雲君と呉君はいつもコンビを組んで、二人は〝互角だった〟んだよ。私はもう〝鬼の力〟なんてステータスが信じられない」
あとがき
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