第364話 啜血鬼公のおわり
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「あああああああっ。ふざけるな、ふざけるなああ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼がかぶる仮面となった金髪少年、五馬乂、三毛猫に化けた少女、三縞凛音が的確な連携で反撃するたびに……。
老いたる元〝鬼勇者〟七罪業夢が誇る〝勇者の秘奥〟、〝影の使役術〟が作り出した武器は失われ、〝七つの大罪〟と名付けられた究極の姿というメッキも禿げてゆく。
「ああ、ああっ。血を代償に、取り戻したはずの若さが消えてゆく。ヒーローたるわしが敗北するというのか!?」
そして、遂には偽装した若さすらも失われ、業夢のしわくちゃになった顔が露わになった。
「業夢さん、わからないのか、貴方はもうヒーローなんかじゃない!」
「〝己は人を守る鬼勇者ではなく、人を喰らう啜血鬼公ナハツェーラーだ〟
そう選んだのは、他の誰でもないお前だろうが。〝鬼神具・死を呼ぶ鐘〟の呪詛と血液の補給がなくなればっ、お前の影なんて脆いものさ」
「うおおおおおおっ。こんなあああああっ」
業夢は完全に勝ち目がなくなったと知ったからか、地に膝をつき、鼻水を流して泣き叫んだ。
「相棒、リン。余計な仏心を出すなよ。嘘泣きだ」
「ああ、業夢さんの影を見ればわかる」
「ワタシたちへの殺意、むしろ強まっているわね?」
そう。業夢は外見上こそ、醜態をさらしながらも、殺意がありありとこもった影の武器で桃太達の急所を狙っていた。
「小賢しい坊主どもめっ。わしを哀れだと思わないのか? わしには王たる器と運命があった。それを、こんな形で失わせていいのか? わしは三界の王になりたいっ」
「その為にクーデターを起こし、異世界大戦を目論んだのか! 人の命をなんだと思ってるんだ?」
「策士ぶる癖に危険性をまるで認識できちゃいない。クマ国まで巻き込んで火遊びをするな。間抜けジジイ!」
「ニャー(貴方こそ、革命されるべき存在よ)」
三人は呼吸と力を合わせ……。
「「「悪行の報いを受けろ。紅竜螺旋掌!」」」
桃太が放つ衝撃波を、乂が風で後押しし、凛音の放つ浄化の炎を加えて、三人は真紅に輝く螺旋の拳を繰り出した。
「うわあああ、やめろおおおっ。わしの〝影の使役術〟が、究極の力〝七つの大罪〟が、こんなことでええ」
赤い炎をまとった風は、業夢が生み出した影の武器……、
〝傲慢の剣〟を砕き、
〝嫉妬の鋏〟を割り、
〝強欲の槍〟を折り、
〝怠惰の槌〟を焦がし、
〝暴食の針〟を溶かし、
〝色欲の縄〟を焼き、
〝憤怒の大剣〟を爆発四散させる。
最後に切り札として作り上げた〝影の使役巨人・七つの大罪〟と、〝鬼神具・死を呼ぶ鐘〟をも灰にした。
「ああああっ、わしの勝利が、わしの夢が消えてゆく」
業夢は見にまとう影を失いながら、地団駄でも踏むかのように暴れたものの、炎風には抗えず素寒貧となって、谷の外れへと吹き飛ばされた。
あとがき
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