第362話 一〇年前の黒幕
362
「ぐひゅひゅ。敗者の泣き言は心地よいものだなあ。そうだ、わしが糸を引いた。この世に生まれ落ちた以上、野望に生きて何が悪い。忌々しい獅子央焔がいた頃から、わしはずっと天下を取りたかったっ!」
日本国に対してクーデターを起こしたテロリスト団体〝K・A・N〟の首魁、七罪業夢は、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の肩に乗る三毛猫に化けた少女、三縞凛音に真相を突き止められたことがむしろ嬉しかったのか、長い舌を振り回しながら上機嫌で話し始めた。
「焔が死病に罹った時、わしは嬉しさで咽び泣いたよ。奴の子、孝恵は惰弱で、およそ後継者には向かん。奴が子供愛しさにあのバカを指名した時こそ、わしが冒険者組合をのっとるチャンスだと小躍りしたとも!」
桃太と乂、凛音はハテと首を傾げた。
彼らの知る冒険者組合代表――獅子央孝恵校長は、戦場の仕事こそ桃太や乂に頼ったといえ、補給などの後方支援や各勢力との外交折衝などは、きっちりやり遂げているのだ。
陰謀にこそ長けるが、ただ不幸を拡散させるだけの男。無能という評価は、むしろ眼前で喚く業夢にこそ、相応しいのではないか?
「だが焔めは、わしの期待を裏切った。信用のならぬ後妻の楊子や、息子の妻である賈南を警戒したのかも知れんが、後継に孝恵ではなく一葉亮を選び、五馬審と二河瑠衣を補佐に指名した。ふざけるなっ、これではわしの立つ瀬がないだろう!」
「業夢さん。立つ瀬もなにも、アナタには一葉さんや乂の親父さん、瑠衣さんほどの人望もなかったようだし、馬鹿にしている孝恵校長にさえも政治で負けて、クーデターに追い込まれたじゃないか?」
「ファック! 賈南も言っていたことけどな、お前は陰でこそこそ悪事をたくらむだけが取り柄のツマラナイ野郎だ。何もかも御破算にする癖に、まともな政治ビジョンもなければ、根回しすらもいい加減なんだよ」
「鷹舟は嘘つきだったけど、ワタシを愛してくれた。貴方には自分以外に何もないのね。哀れなひと」
桃太、乂、凛音からまさかの指摘を受けて、業夢は先ほどまでの躁状態が嘘のように鬱々とした顔で吠え猛った。
「うるさい。わしが得られるはずだったはずの利益を取り戻して何が悪い。陰謀だけが取り柄だとっ!? けっこうけっこう、わしの手のひらの上で皆よく踊ってくれたよ。カムロだってそうだ。奴が地上に送ってくれた、二河瑠衣の肉体は一級品だった。あれほどに美しく素晴らしい死体は他にない」
そして、言ってはならないことを口にしたのだ。
「老人だからとか悩んだけど、もう殴ることにためらいはない」
桃太の拳が、吸血鬼の胸を貫く白木の杭がごとく業夢の腹に突き刺さり。
「ゴー・トー・ヘル! くたばれ」
乂の操る風が、吸血鬼の内部に入り込み、ハラワタをかき混ぜる。
「鷹舟に罪がないとは言わない。でも、彼に罪を背負わせてしまったワタシだからこそ、因縁の始末はつける」
凛音の目から発した炎のレーザーが、追撃とばかりに鬼の身体を焼く。
「ぐひゅ、へぼああっ」
桃太、乂、凛音の力を合わせた連続攻撃を受けて、業夢はボロボロになりながらも見苦しく影を展開する。
「こ、このっ。仇討ちなどという卑小な動機でしか戦えない小物どもめ。わしは地球を、異世界クマ国を、異界迷宮カクリヨをすべる。そして、三界にわしを崇める絶対的理想郷、地上の楽園、ユートピアを作り上げるのだ。その偉業を、その理想を邪魔させんぞおっ」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)