第358話 大将決戦
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「乂、やるぞ」
「目にもの見せてやろうぜ、相棒」
「ニャー」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、金髪ストレートの長身少年、五馬乂。そして乂の首に巻き付く三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、地球日本と異世界クマ国の掌握を目論んだ元勇者にしてテロリスト、七罪業夢を討つために背中合わせで突撃した。
「ぐひゅひゅ。〝死を呼ぶ鐘〟の音と〝吸血眷属〟の霜を無効化し、我が部下を倒したことは褒めてやろう。だがその程度で勝ったつもりとは笑止千万。我が影の使役術の冴えはここからよ。〝傲慢の剣〟よ切り裂け!」
一方、数多の冒険者の死体を実験にかけることで極めた、禁忌の秘術で若返り、マッシブな巨漢となった七罪業夢は、長い舌を振り回しながら己の影を膨れ上がらせ、うん百という影の剣を作りだし、雪崩のように放ってきた。
「紗雨ちゃんが、龍笛で応援してくれるんだ」
「サメ子達が呪いのデバフを解いた以上、影の技が効くと思うな」
桃太と乂は、それぞれ衝撃と風をまとわせた拳で、薄紙でも破くかのように影の剣をベキベキとへし折り、破竹の勢いで加速する。
「流石は新しき勇者と、元勇者の二人組、いや猫に化けた娘も含めて三人組。我が攻撃をかくも容易く防ぐかっ」
業夢が余裕綽々とばかりにほくそえむ姿を横目に、乂は桃太に肩をふつけ、風で耳元に声を飛ばす秘匿通信を送ってきた。
「(相棒、リンが異常に気づいた。足元を見ろ)」
「(破壊した業夢の影が、俺たちの影にまとわりついている?)」
三縞凛音が鬼神具・ホルスの瞳で見抜いたところ、どうやら桃太達の影もまた、業務の影の使役術の影響下にあるらしい。
「ぐひゅひゅ。お前達は、姫君を救う王子役になりたいのだろう。下心が見え見えはいかん。無理を押しているのがまるわかりだぞ。『情欲を抱いて他者を凝視する者は、既に姦淫を犯している』なんてな。〝色欲の縄〟よ、縛り上げろ!」
「「なにっ……」」
桃太と乂の体は足下の影がそうであったように、実体化した黒い影によってぐるぐる巻きにされてしまう。
「ぐひゅひゅ。ただ戦っていると思ったから、お前達の影を浸食していたのよ。これでしまいだ。〝強欲の槍〟よ。身動きの取れない愚かなガキ共を貫き殺せ!」
業夢は勝利を確信しゲラゲラと笑いながら、影の槍を放った。しかし――。
「「なーんちゃって」」
桃太と乂は影の拘束も気にとめず、槍の防壁へとつっこんだ。
直後、乂の姿が黄金色の蛇に変わり影の拘束から逃れるや、牙と尻尾を使って桃太を縛る影のくびきを引きちぎる。
「なんだとっ、無策特攻かと思いきや、自らの影姿を変えることで、呪いを解いたのかっ!」
「あたぼうよ。どんな策を練ろうと、リンの目は誤魔化せないぜ」
「見抜いてしまえば、後は利用するだけ!」
二人は業夢を圧倒するかの如く、声高らかに名乗りをあげた。
「「舞台登場、役名変化――〝忍者〟っ。ヒアウィゴー!」」
あとがき
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