第357話 それぞれの切り札
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「コケーッ。貴方たちが不幸だったからといって、他人を不幸にする資格なんてありませんのよ。桃太さん、……いえ、我が最愛の執事を助けるためにも、今度こそ終わりにしましょう。〝空王鬼ジズの羽根〟の力を引き出します。今こそ、〝鬼術・光刃三千〟!」
赤い髪を二つのお団子状にまとめたグラマラスな少女、六辻詠が、殺し間へ誘いこまれたテロリスト団体〝K・A・N〟に対し、〝鬼勇者〟の面目躍如とばかりに膨大な数の光刃をぶつけて半壊させる。
「う、嘘だろ。〝夜狩鬼士〟だけに留まらず、〝吸血眷属〟になってまで負けるというのか?」
異形化して両腕をカマキリの如き刃に変えた痩せ男、索井靖貧を先頭に、団員一〇〇名のうち六割以上が戦闘不能となり、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟に突っ伏した。
「建速紗雨っ。こうなったら、相打ちでも構わない。せめて、お前だけでもっ」
〝吸血眷属〟部隊の最後尾に位置する恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔が、背負った壺のような器官から赤黒い霜をジェットのように噴出しながら、サメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨に飛びかかるが――。
「詠ちゃんには負けていられないサメ。桃太おにーさんの力になるんだサメ。ウルトラサメアッパーッ!」
紗雨は、着ぐるみのスリットから伸びた白い足で踊るように踏み込み、水柱を立てながらジャンプするカエル飛びアッパーカットで、郅屋の顎を打ち抜いて天高くぶっ飛ばす。
「無念っ。業夢様と同じ〝鬼勇者〟ならばいざ知らず、サメ娘のわけのわからない技に負けるのかっ」
西暦二〇X二年八月一二日午後。
太陽が西に傾き、黄金色の輝きが谷を覆う頃。
冒険者パーティ〝W・A〟と、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスは、日本政府にクーデターを起こし、ヨシノの里をのっとろうとした元勇者パーティ〝K・A・N〟の最前線部隊に対して、完全な優勢となつた。
「フハ、アハハ! 七罪業夢もその部下も、もう少し音楽センスを磨くべきだったな。サアメは音楽も料理もうまいのだ。なにせこのデリシャスサメ娘は、出雲桃太のマズメシすらも再生できるほどの匠だぞ!」
「賈南さん、その情報いる?」
「「いる! 説得力が違う!!」」
「ひどっ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が、仲間達のもっともな反応にがっくりとうなだれたる様を見て、昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南はニンマリと笑った。
「さあ索井と郅屋を倒し、お膳立ては整えたぞ。出雲桃太、五馬乂、三毛猫のリンよ。我らが怨敵、七罪家当主はそこにいる。盛り上げて見せろ!」
賈南の叱咤激励を受けて――。
「乂、やるぞ」
「目にもの見せてやろうぜ、相棒」
「ニャー」
桃太と、金髪ストレートの長身少年、五馬乂。そして乂の首に巻き付く三毛猫に化けた少女、三縞凛音は、背中合わせで突撃した。
あとがき
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