第356話 猛反撃
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「紗雨ちゃんのために」
「紗雨姫のために」
修道服に似たサメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨が奏でる笛の音でテンションをあげた、焔学園二年一組の生徒たちと鴉天狗。
地球と異世界クマ国。生まれの違う二つの世界の住人の意思がひとつに重なった、歴史的な瞬間だった。
「見誤った。冒険者パーティ〝W・A〟の最強は出雲桃太だが、中心だったのは蛮族の娘、建速紗雨だ。先にその娘を始末するべきだった。〝怠惰の槌〟よ。粉微塵にしてしまえ!」
「紗雨ちゃんに手は出させないっ」
七罪業夢は、カメレオンのように長い舌を振り回しながら、〝影の使役術〟で、全長一〇メートルを超える巨大な影の槌を作って紗雨を狙うも、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が右腕から伸ばした衝撃の刃で受け止める。
「吸血ジジイめ、気づくのが遅えよ。お前は人の心を失う前に引退すべきだった」
「ナー(乂の言葉、ワタシにも刺さるのだけど……)」
金髪の長身少年、五馬乂が、三毛猫に化けた少女、三縞凛音の瞳から発する炎の援護を受けて、炎風をまとった両足跳び蹴りで影の槌を破壊――。
「ちいいっ。索井、郅屋、蛮族の娘をっ、建速紗雨を殺せ」
業夢はそのまま紗雨を狙うかと思いきや、――これまでと同様に戦場を動くことなく――桃太と乂、凛音に向き直って交戦を継続。
ノコギリのような歯をした痩せ男、索井靖貧と、カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔に紗雨の殺害を命じた。
「索井、協力しましょう。あのサメ娘が笛の演奏を続ければ、我らに勝ち目はない」
「親分の命令じゃあ仕方ない。郅屋、先鋒は俺が行く。〝傲慢の剣〟でガキ共をたたっ切る」
索井靖貧は両手が変化した鎌を振りかざし、〝吸血眷属〟部隊一〇〇体の先頭に立ち、影から生み出した無数の剣を並べて斬りかかったものの――。
「敵の前衛は我らヤタガラス隊が引きつけます。冒険者パーティ〝W・A〟は、側面から切り崩しをお願いします」
「りょーかい。〝砂丘〟展開。モード選択〝剣牙〟!」
「任された。残り少ない武器はここで使う!」
葉桜千隼ら異世界クマ国の鴉天狗たちが錫杖で弾き、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜らが、隙だらけになった部隊の横っ腹を殴ることで足止めに成功――。
「あなたたち、中々やりますね。異世界の紗雨ちゃんファンも侮れない」
「そいつはどうも、あんた達こそやるじゃねぇか。地球にも凄い奴らがいると勉強になったぞ」
髪を七三分けに揃えた少年、羅生正之ら研修生の術士と、鴉天狗の術士達が力を合わせて鬼術を連打――。
テロリスト団体〝K・A・N〟の精鋭達を誘導し、一箇所へと押し固める。
「焔学園二年一組の皆さん、よくやってくれました。クマ国のヤタガラス隊のご協力に感謝します」
そして、ここまでの攻勢は全て、担任教師である矢上遥花の作戦のうち。この場で最大火力を持つ〝鬼勇者〟の射線を切り開くために他ならない。
「コケーッ。貴方たちが不幸だったからといって、他人を不幸にする資格なんてありませんのよ。桃太さん、……いえ、我が最愛の執事を助けるためにも、今度こそ終わりにしましょう。〝空王鬼ジズの羽根〟の力を引き出します。今こそ、〝鬼術・光刃三千〟!」
あとがき
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