第352話 罠の達人
352
「カムロの部下であるカラスどもが痛めつけられるのは小気味よいが、今の妾は焔学園二年一組の一員。光栄に思えよ、この伊吹賈南がクマ国に手を貸してやる」
「なにい!?」
昆布のように艶がない黒髪の少女、伊吹賈南は、再編中の冒険者パーティ〝W・A〟から進み出て、パチンと指を鳴らした。
すると、テロリスト団体〝K・A・N〟の団員である、索井靖貧や郅屋豊輔らの、昆虫のように異形化した手足が、唐突に動きを止めたではないか?
「な、なんだ。体が急に動かなくなったぞ。気持ちが悪い、吐き気もする。昆布女め、貴様の仕業か?」
「いったいどうやって!? 我々が把握していない、新たな〝鬼神具〟でも隠していたのか?」
「アハハ、愚か者ぉ。安易に鬼の力に頼るから、そんな貧しい発想しかできんのだ。〝W・A〟の切り札たる、妾の神算鬼謀に慄くがいいっ」
賈南はいかなる方法か、異世界クマ国の防諜部隊ヤタガラスの鴉天狗を痛めつけて血を啜る〝吸血眷属〟の暴虐を食い止め、命を奪うことを阻んでいた。
「おいこらカラスども、何をぼうっとしている? 猪武者もほどほどにせよ。妾が食い止めているうちに逃げてこい。力を合わせて逆襲するぞ!」
「葉桜千隼さんとヤタガラスの皆様。〝鬼神具・夜叉の羽衣〟で支援します。こちらへ来てください」
焔学園二年一組の担任教師、矢上遥花は、賈南が作ったチャンスを逃すことなく、栗色の髪を束ねる赤いリボンに触れて術を発動。スーツをかざるフリル生地を伸ばし、鴉天狗達の元へ命綱として届けた。
「葉桜隊長、あの伊吹賈南という少女、ものすごくあやしいんですが……」
「失礼なことを言うな。伊吹殿、矢上殿、助けていただいて感謝する。防諜部隊ヤタガラス、第一一三特務小隊は、これより紗雨姫の学友達と合流する」
窮地に陥っていた葉桜千隼ら防諜部隊ヤタガラスの小隊は、一部の鴉天狗が賈南の見るからに怪しい言動に訝しんだものの、さながら天より降りた蜘蛛の糸につかまるようにして離脱。
冒険者パーティ〝W・A〟との合流に成功した。
「賈南さん、遥花先生、ありがとう!」
「グッジョブ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太や、その相棒の金髪少年、五馬乂が親指を立てて喜ぶ反面……。
「こ、このバカモノどもがあ!」
敵の総大将たる七罪業夢は怒りのあまり顔を紅潮させて、部下達を怒鳴りつけた。
「索井、郅屋、何をやっているか! 注目すべきは、その昆布女ではない。澄ました顔で後ろにいる六辻詠だ。奴の〝鬼神具・空王鬼ジズの羽根〟は、光を操る。お前も、砂漠に見えるオアシスや、水平線に浮か宮殿の逸話を聞いたことがあるだろうっ。つまりは光学迷彩、光が屈折することで虚像が見える自然現象、蜃気楼で偽装しているのだ」
業夢が影の剣を投げつけるや、まるで霧が晴れるようにして、蜘蛛の巣のように張り巡らされた鋼糸と植物の蔦が顕になった。
「こ、これは空中に、麻痺毒のあるイバラを巻きつけた鉄線を張り詰めているのか?」
「仮にも勇者パーティに向かってなんという暴挙か!」
「アハハ、吸血鬼が何をいう? お前達のような搦手使いを相手に、正面から挑むは愚の骨頂。先の戦いでは殺さずに戦えと言われたから加減したが、今回は気遣い無用で行くぞ、出雲桃太!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)