第350話 恐るべき霜
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「だめだ、変わらない。音で集中できないだけじゃなくて、郅屋豊輔というツボガエル男の振りまく霜が広がって、体に張り付いてくるんだ」
「フフフ、驚きましたか? 業夢様の鈴音と、私の霜は呪いだ。怪我じゃないから、治ることもありません!」
「ギャハハっ。これが〝K・A・N〟の連携、その真骨頂よ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼のクラスメイト、焔学園二年一組は、窮地に陥っていた。
若返った敵の首魁、七罪業夢が〝啜血鬼公〟ナハツェーラーの役名を宣言し、〝鬼神具・死を呼ぶ鐘〟の力で蹂躙を始めたからだ。
「さっきやられた礼だ。ぶっ殺して血をくらってやる。〝傲慢の剣〟よ!」
索井がカマキリのように変化させた鎌と、彼の部下達が振るう影の剣が、林魚旋斧ら冒険者パーティ〝W・Aの前衛部隊を殺めようと迫り――。
「深く考えずに前へ出過るからだ。詠様、関中、遠距離攻撃を一当てした後、前衛の奴らを回収して後退するぞ」
「羅生、だめだ。鈴の音と赤黒い霜で力が抜けて、ぼくたちも体が思うように動かない」
「霜のせいで光が乱反射して、思うように戦えませんわあ」
「フフフ。〝影の使役術〟で直接血をすするだけではなく、霜を使って間接的に生命力を奪う。スマートでしょう? さあ〝強欲の槍〟よ、血を喰らいなさい」
羅生正之や関中利雄ら他の研修生や、六辻詠が救出に向かったものの、郅屋の霜に阻まれて迎撃の矢や術もまるで効果がない――。
「くそ、皆を助けにいきたいのにっ、影の武器が強いっ。業夢さんのスタミナ、おかしいだろうっ」
「あの吸血鬼野郎め、若返って更に力を増してやがる。血から得られるエネルギーって、そんなに凄いのかよ?」
「ニャ、ニャー(吸血鬼の割には、太陽はまだ出ているのにダメージを受けてる気配はないし、乂が以前買った十字架風のアクセサリを見せてみたけど、変化はなさそうね)」
桃太と、彼の相棒である金髪少年、五馬乂、三毛猫に化けた少女、三縞凛音がクラスメイトの救援に向かおうとするも――。
「ぐひゅひゅ。死人ではなく生者なのだから、太陽を怖れる必要などなかろう? わしは聖書を読むが、あいにくカトリックでもプロテスタントでもないから十字架を見せられたところで何とも思わんよ。ニンニク入りの餃子も大好物じゃ。……勘違いされては困る。ワシの役名は、創作上の吸血鬼ではなく、人の血と恐怖を糧とする〝啜血鬼公〟ナハツェーラーよ。よそ見をする余裕などあるものか!」
業夢が人間離れした長い舌を振り回しながら〝影の使役術〟で繰り出す、膨大な数の影の武器によって足止めされていた。
「にゃん(右、左、一歩下がって!)」
「乂、右の剣は俺が砕く。我流・長巻」
「わかったぜ、相棒。左の槍は任せろ!」
桃太は右腕に巻きつけた二メートルほどの衝撃刃で一〇〇近い影の凶器――〝傲慢の剣〟を叩き折り、乂もまたハリネズミのように並ぶ〝強欲の槍〟を黄金色に輝く短刀で斬り散らす。
二人が鈴の呪いに侵されながら、およそ軍勢とも言える影の武器と渡り合えるのは――、乂の首にマフラーのように巻きついた凛音が、敵の攻撃パターンを鬼神具の瞳で予測し、共有しているからだ。
「桃太君、乂。大丈夫よ。戦っているのは貴方達だけじゃない」
凛音が励ますように叫ぶと同時に、予想もしなかった声が戦場に凛と響き渡った。
「紗雨姫と御学友がピンチだ。奮い立て!」
あとがき
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