第348話 血の祝福
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「わしこそは愚民どもを躾け、支配する高みにある存在、貴種にして貴族なのだ。ゆえに正しき秩序を実現するため、地球とクマ国を革命しよう!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、赤い髪を二つのお団子状にまとめた少女、六辻詠は、カメレオンのように長い舌を振り回す、七罪業夢の話に耳を傾けたことを後悔した。
「……業夢さん。革命も何も、さっきお金が目当てだと自白したじゃないか」
「桃太さん。貴方は私の執事なのですから、剥製目当ての殺戮を公言したことも忘れないで欲しいですわ。まったく趣味が悪過ぎて、親戚であることが恥ずかしい」
「ぐひゅひゅひゅっ、好きに言え。子供は簡単にひっかかってくれるから有り難い」
結局、業夢の言葉には特に意味はなく、二人との会話はあくまで時間稼ぎ、ペテンの一種だったのだ。
「旧約聖書に曰く、〝大酒呑みや肉を貪る者と交わるな〟とあるが、わしも長い禁欲生活には飽きた。バーベキューとは皆で楽しむものだろう? 〝暴食の針〟よ。我が血と力を分け与えよ」
若返った老人は、一見正しそうに見えて中身のない演説をぶって学生達を困惑させながら、密かに部下たるナイトストーカー隊の首筋へ影を伸ばし、針のようなものを打ち込んでいたのだ。
「ギャハハ。さすがは親分だ。血が全身を巡るこの感覚は、キクーっ」
「フフフ、先の戦いではまるで足りないのですよ。もっと血を、血を吸わせろ!」
すると、桃太のクラスメイトである冒険者パーティ〝W・A〟が必死で倒した、テロリスト団体〝K・A・N〟の団員達――。
ノコギリのような乱杭歯が目立つ痩せてシワのういた男、索井靖貧と、カエルのように恰幅のよい丸顔の中年男、郅屋富輔らが、布や鋼線の拘束を引きちぎって立ちあがり、業夢と同様に若返り始めたではないか。
「〝鬼神具・死を呼ぶ鐘〟や、七罪家に伝わる〝勇者の秘奥、影の使役術〟は、血を使うことで若返る力もあるのか!?」
「桃太おにーさん、索井や郅屋の顔を見るサメ。赤黒い霧がべっとりくっついて、鬼に憑かれたみたいにまともじゃない。ギリギリ人間のカタチだけど、手足が昆虫みたいになったり、壺とか棒みたいなが浮き出ている人もいるし、若返りじゃ無くてもっと酷い何かサメー」
桃太や、修道服に似たサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨らが慄然とする中――。
「「舞台登場 役名宣言――〝吸血眷属〟! 親分の血の祝福で、更なる強さを得た我らのの力に震えるがいい!」」
索井靖貧は両腕をカマキリが如き鎌に変化させて〝傲慢の剣〟と並べて斬りつけ、郅屋豊輔は背中に壺のようなものを背負って赤黒い霜のような冷気を垂れ流しながら、〝強欲の槍〟で突いてくる。
他の団員達も失った蒸気鎧の代わりと言わんばかりに、手足を蜂やバッタのような禍々しい異形に変化させて猛然と襲いかかってきた。
「みなさん、気をつけてください。モロイもまた、東欧に伝わる吸血鬼の名前です」
焔学園二年一組の担任教師、矢上遥花が警告しつつ、自らの武器である栗色の髪を結んだ赤いリボンで迎撃するのを皮切りに――。
出雲桃太が代表をつとめる冒険者パーティと、啜血鬼公ナハツェーラーを自称する七罪業夢が率いる異形の軍勢は再び激突した。
あとがき
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