第346話 七罪業夢の役名
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「なるほど焔学園二年一組。いや冒険者パーティ〝W・A〟だったか。てっきりビギナーズラックと思いきや、三縞家と〝C・H・O〟、四鳴家と〝S・E・Iを倒しただけのことはある。どうやら実力は本物のようだな」
地球の日本国に対しクーデターを起こし、異世界クマ国の乗っ取りを企む大悪党、七罪業夢は、部下である〝K・A・N〟団員達の敗北を嘆きながらも、飛来して頬についた血をすする。
「業夢さんは、何をやっているんだ? 血を吸うのは、七罪家に伝わる〝勇者の秘奥、影の使役術〟の能力じゃないのか? 直接吸う意味があるのか?」
「相棒、あのクソジジイの異名は吸血鬼だ。たぶん、実際に血を吸いたくなるような、〝鬼神具〟の反動があるんだろう」
「ナーッ(鬼神具は、強ければ強いほどに、癖も強いものよ)」
「ああ、甘い。五馬の小倅や三縞の化け猫が言う通り、生きのいい血こそわしが求める贄に他ならん」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、彼の相棒である金髪の長身少年、五馬乂、その肩で丸くなった三毛猫こと三縞凛音の前で、七罪業夢のしわに彩られた目が、〝鬼の力〟を帯びて赤く輝く。
「七罪と〝K・A・N〟は、六辻剛浚と〝SAINTS〟に、〝三連蛇城〟で時間を稼いでもらう間に、異世界クマ国を落とす予定だったのに、お前たちのようなクソガキに、わしらの存在がバレてしまったのは実に遺憾だ」
「業夢さん。地球規模の惑星を簡単に落とすとか、正気で言っているのか?」
「住むのが人でなく、獣であれば広さなど問題にもならん。しかし、愚かな地球の国々はクマ国を国家として認めるという。そうなってしまっては、わしの懐が膨らまんではないか。大量の剥製や財宝が待っておるというのに」
桃太は、業夢が語るあまりに俗っぽい野望に呆れた。
「結局、お金目当てじゃないかっ」
「相棒、もっとまずい。さっき郅屋とかいう部下も似たようなことを言っていたが、この吸血ジジイめ、クマ国の人間を剥製にするつもりだぜ」
「ニャンニャン(まさに外道、最悪の鬼ね)」
桃太は、業夢の熱に浮かれた赤い瞳を見て、背筋がヒヤリとした。
長きに亘る冒険者生活で〝鬼の力〟に汚染されたのだろう。
眼前の老人は、取り返しが付かないほどに、野心と欲望に狂っているようだ。
「発想を変えれば、いいタイミングかも知れん。ここがクマ国であれば、カムロがすっ飛んで来て面倒なことになるだろうが、かねてからの想定通りにカクリヨが戦場となった。その上、目障りな防諜部隊ヤタガラスも、焔学園二年一組も相打ちで疲弊して、索井や郅屋も不甲斐無いなりに情報を引き出してくれた。おまけに、出雲桃太はボロボロで、切り札の〝生太刀・草薙〟も使用済みときた。ならばここで確実に始末するとしよう」
業夢は長い舌からよだれを垂らしながら、鈴を編んだ首飾りを掴み、高々と宣言した。
「〝鬼神具〟、〝死を呼ぶ鐘〟よ、響き渡れ。舞台登場 役名宣言――〝啜血鬼公〟ナハツェーラー!」
あとがき
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